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 陽は昔から、絵を描いたり、美術的なことが好きだった。
 スケッチブックによく、何かの絵を描いては俺にこっそり見せてくれていた。

 すっかり眠ってしまった照井はまるで俺を愛しむかの如く腕の中に収めている。

 初めて照井と寝た日がきっと、所謂処女喪失で、それはもう二重人格になった後だったと思う。俺は散々に照井を罵るくせに、自分がけしかけたことで、興味本意だなんてものでもなかった、ただ確かめたかった。自分が、何者であるかということを。

 昔から、俺を山車にして陽が病院へ訪れることを照井が楽しんでいると知っていた。なんでそう思ったか、いつからだったかは明確ではないけれど。

 陽に会った人間は誰彼構わず明るくなれる。本物の陽はそういう姉だった。
 いつから、俺が作り出した陽がここにいて側を離れなくなったのかは知らないし、本物がいついなくなってどこにいるのかすら知らない。

「照井、」

 喉が掠れそうだ。
 起きているのかどうかは知らないけれど、これなら照井も確実に起きるだろうと、寝巻きの上から胸あたりに指を這わせて「朝だよ」と吹き掛ける。

「んー…」

 と寝惚けた照井は少し腕に力を入れて俺を抱き枕にしながら「ふーん…」と寝こけるので、露な首筋を柔く食みつつ「朝だって」と語り掛ける。

「ん…?朝?」
「7時。朝飯」
「朝飯?」

 まだカタツムリのようにもぞもぞと鈍く、起きようとしない照井には取って置きの、「先生、ねぇ」と女子みたいな言い方をしてやれば「ん?」と、やっと目が合う。クソ猿親父、Fuck。

「…おはよう……」
「悠だよ、」
「ゆー…」
「熱いんだけど離れろよハゲ」
「ゆーかぁ…」

 悪かったな悠で、と言おうと思ったが途端ににやにやした照井は俺に覆い被さるように体勢を変えたから、驚いた。

 なんなのこの猿、万年発情期なの?一瞬にして勃起したけどお前は男子高生かよ変態野郎。

 確かめてみたはいいけど俺はこいつに処女を投げつけてやってから知った、陽がどうとか男とか女じゃなくてこいつはただ単に多分ロリコンだった。だが成人した俺でもこれ。こいつは雌雄胴体の生き物以下だと思う。

「おいふざけんなよ朝だっつってんだろカタツムリ野郎、塩掛けんぞコラ」

 足で蹴ったろーかとするも、体勢的にわりと自由も利かない。
 しまいには「満更でもないじゃん、朝から全く」とキスをして来るのを受け入れてしまう俺も俺だ。
 ロリコンの癖に恐ろしいほどキスがうまいのだこの変態は。

 …すーっと意識がスッキリと抜けていくように感じるこの瞬間が好き。
 なのに感情的で、口から直接それを流し込まれて汚されていくような気がするからつい、受け入れてしまうのだけど。
 流石にズボンに手を突っ込まれそうなのに「待てよ」とその手を捉えて我に返った。

 何も言わずにキョトンと、いや、寝ぼけている照井に「お前殺されたいのか、この変態」と罵ってやる。

「ん?」
「朝、7時。わざわざ起こしてやってんだから感謝しろよ朝飯と、お前仕事!良い加減目ぇ覚ませよ目潰ししたろーか?」
「うっわ起きた超怖いそれ」

 ふわっと離れた照井はあっさりベットの縁に座ったかと思えば、ぼんやりと股間を見つめ無言だった。

「…ねぇ俺って意外と若いよね」
「はぁ?死ねば?」
「これどうするべき」
「はぁ?処理の仕方もわかんねぇの?じゃぁ切れば?バカなの?」
「…きょーも悠は元気だなぁ…引くわぁ…」
「お陰さまで。でもお前ほどじゃないから」

 ふぅ、と一息吐いては「で、」と、なんだか照井は改まる。

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