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「悠は寝れた?」
「ぼちぼち」
「食欲はあるね」
「だから言ってんじゃ」
「口は乾いてる?」
「は?お前のせいでびちゃびちゃだけど死ねよカス」
「ははは、」
照井は笑って「朝の薬を飲まないとねぇ」と言う。
「お水持ってきてあげるから」
「やだね」
「またびちゃびちゃにされたいの?」
「やーだねっ」
「我が儘だなぁ君は全く」
照井は一度そうして部屋を出たかと思えばペットボトルを片手に持って来てはにやっと笑う。
最低だなと衝動的に引き出しからピンクのPTPを何個も掴んで投げつけてやれば、「安定の情緒不安定」とか言いながらまたベットに座った。
あろうことか照井は炭酸水を寄越したのだから、ぶっかけてやろうと思ったけれど、意地悪くそれを口移ししてくるのだから胸をぶっ叩くしかない。
本気で噎せる、死ぬ。
流石に叩き続けた甲斐があり多分伝わったようで口を離すから咳き込む。ホントに辛い。喉がいがいがするからこれ嫌い。
「あらぁ」
「こほっ、うぇっ、」
「意地悪しすぎた?」
答えられないから変わりに拳を振り上げれば「わかったごめんて」とやんなったように照井は言った。
もーいい、ふて寝する。
もうここは俺の陣地だと大の字でベットに寝れば「ははは、偉そう」と言いつつ照井も腕あたりに寝転んでくる。本格的に死んで欲しいと思った。
「一個やったら他忘れるとかアホすぎて死ねば良いのに」
「ご機嫌斜めだね。今日だけで俺は何回死ねばいいの」
「いっぱい」
「だよねぇ」
ふと間が出来て照井はニヤリと笑い、少し伏し目に俺の腰骨あたりを抱いてきた。
なんなんだこいつはと思えば「どうしてそんなに不機嫌なの」だなんて言うのだから、寝返りを打って背を向けるしかない。
そうすれば不意に優しいように、陽の手首の傷を指先でゆっくり、ねっとりと撫でてくるのに溜め息が出る。
「お前がしつこいからだよ」
「…少しだけどうかな」
「少しじゃないし気分じゃないし」
「どうしてもスッキリしなくて、全部」
全部。
「…全部って何」
「昨日のこととか最近のこととか」
「あぁ、てめぇ、無様に泣いていたな」
結局答えは聞けなかった。
多分それが答えだった。
振り向いてはやらないが、大して抵抗もしない。傷口に爪を立てられ痛みを引っ張り出されるし、ぐるっと身体は仰向けにされるし。でも始めから本当はどうだってよかった。
俺は最初から、自分以外の何かを満足させるためにしか生きてきてない。
珍しく、噛み殺すように整えようとしている照井の湿った息は首筋に震えて掛かる。
思うところがあるなんて、そんな偽善まで根を絞め殺してしまえば良いのにな。
無の中でもそれなりに痺れる機能を使わせるのだから不感症と言うほどでもない。胃酸は、カタツムリの殻くらいなら溶かせるのだろうし。
我ながら笑えると思う。別にどんな意識もない、ただの自己否定と肯定をぐちゃぐちゃに混ぜ合わせて交尾をさせている、それだけのことがこの男と暮らし最終的にはブラックホールと同じで貪られていくのだ。遥かに麻痺している、記憶も思いも何もかもが。
陽は、俺のこともこの男のことも、何も知らないでいるから愉快だ、凄く。
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