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 二人のうちどちらか、どちらともでもいい、少しだけ幽霊にでもなれた気分だなと思った瞬間には「あっ、」と明日香に気付かれる。
 源蔵もそれに気付くのだけど、二人とも話し掛けてこないのは、俺が今どっちなのかを見極めているのだと、出会ってわりと最初に気付いた。

 どう違うのかは正直自分ではわかっていないけど、だから「よう」だなんてクソ笑顔で答えるのだ。

「悠か」
「悠だね、おはよう」

 悠じゃ悪ぃか、おはようでもねぇよ、だなんて返しても、今日は何故だか二人とも顔が曇っている。

 お二方の前の席にお座り遊ばして、俺はバックからゲテ菓子を出し、ただただ頬杖をつくだけ。待っている、お前らの疑問とやらを。

「なんだこれは」
「お前にやるよゲンゾーくん。お前の彼女どうかしてるなあ。俺はこんなに悪趣味じゃねぇよ」

 チクリ、と釘を刺すニュアンスになっちまったかな、いや、考えすぎかな。

 源蔵が「ふむぅ…」と珍妙な顔付きで菓子を眺める横で、「具合は大丈夫なの、悠」と、名前を強調して明日香がわざわざ聞いてくる。

「あぁ、大丈夫大丈夫、悪かったな!お前らびょーいんに来たらしいね」
「うん…」
「あ、栗山さんは俺が呼んだ」
「知り合いだったのか、お前ら」
「いや…、」
「疚しい意味はないぞ、マジで。初めましてだった、」
「いや、別にそうじゃねぇよ。興味ねーしさ」

 なんで呼んだか聞いてみたい、なんならお前は何故来たかと…、いや、本当はそんなことが聞きたいわけじゃないのに。
 この嘘臭さが気持ち悪い。

「…どーして来たんだお前らは、わざわざ。大変だっただろうに」
「…いや、」
「加藤のグループってところかな」

 「えっと…」と源蔵が明日香を気にしているので「合コンだかなんだかのグループだよ」と俺は明日香に答える。

 明日香は源蔵をまじまじと見るのだし、俺に何かは言いたそうだ。

「言いたいことくらい聞いてやるよ明日香」
「…おい悠ちょっとさぁ、」
「そんなん言って、お前も同罪じゃん?」
「田辺くん、いいの大丈夫、慣れてるから」
「えっ、そぉれで…」
「いいの」

 源蔵は相当疑問な顔をしているが、俺は明日香に「はは、いー女だね」と頭を撫でる。
 けれども明日香は浮かない顔をしていた。

 何かは聞きたい顔である、例えば何故そうなったかだとかそういうことだろうとわかるけれど、明日香が自ら詮索をしてくることは、今まで通りであればないハズだ。この女は良くも悪くも約束を破らない。

 こんな時に友人、源蔵ならば果たしてどうするのかと待っていれば、「ホントに大丈夫なのか」と、突っ込んでくるのは予想通りだ。

「端から大丈夫でもないからな、俺なんて!」
「そうじゃなくて」
「まぁ礼でも言ってやろうかと思って。悪かったよ」

 黙り込むことだって、知っている。

「で、クソ加藤はどうしたの?」
「…は?」

 源蔵はやはり面食らうらしい。

「…取り敢えず見かけてないけどお前ら一体何があってああなったんだよ。なんかされ…」

 俺が加藤を食っちまったんだよと目で訴えれば源蔵は恐らく理解をしたのだろう、ぐっと黙ったのだがそれはそれで明日香が「…なんなの」と不安になる。

 2人以上の人間と一気に付き合うのは非常に面倒だ。

「…流石に心配するでしょ悠」
「俺はなんともないからこうしてるんだけど何?」
「…じゃぁハルちゃんは…どうしたって言うの」
「さぁ。それが俺にもわからないからお前らに聞いてみようと思ったんだけど」
「え?」
「なんだそ」
「俺に2日ほど記憶がないんだよ。ハルに何があったかお前らも知らない?」

 二人とも黙り込んだ。
 だから促す、「お前らどうして来たんだ」と。

「…待ってどゆこと」
「知らねぇならいいんだけどネ。はははっ、」
「それってどういう…」
「あぁ。主体人格は交代人格の存在を知っている。これはわかるだろ?
 交代人格は主体人格、つまり陽は俺を知らないんだ。だからなんとなく陽が何をしているか、うっすら見えているから俺が飛び出していけるってわけだ。
 まぁこれは受け売りだから本当は陽がどうとか、いまいちわからないんだけどね」
「受け売りって、あの先生からの?」

 その明日香の一言に、俺は不覚にも面食らってしまった。

「主治医の…」
「…あぁそうか、そうだよな、お前らあいつに会ったんだよな。主治医というより…保護者だけどね」

 二人とも黙り込んだ。やはり自分の話をするのは嫌なものだな。

「…その“保護者”からなんとなく、お前と陽ちゃんの仕組みと言うものは聞いた。悠、陽ちゃんに会えなかったのか」
「会えなかったってのは、何?」
「いや…」
「一度たりとも会えた試しは」

 いや…。

「いや、会えたよ、昨日か今日か」

 陽を絞め殺す夢を見た。
 特に話さなくても二人はそう、黙るものだ。
 まるで俺と陽を見分けるときのように自然に。それは俺にはわからない差異。

「…まぁ、夢なんだけどな」

 黙って聞いているそれも本当はウザくて仕方がない、気持ち悪いし頭がおかしいと誰か言え、はっきり言えよ。
 …そろそろ無駄に使ってる表情筋が痛ぇんだよ。

 源蔵が真面目腐って「あのさ、」と切り出した。

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