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 部屋に飾られた絵画にどんな意味があるかはわからなかった。

 気付いたらそこにいて、真横にチューブがぶら下がっていることに「病院か」と言う認識はあった。

 そこに毎日来訪者がいて、名前は「照井」さん。この人がどんな人なのかは、知らない。

「こんにちは、照井さん」
「こんにちは、悠くん」

 照井さんはいつも、色とりどりの花を持ってきてくれる。爽やかな笑顔の人で、まるで陰を、感じない人。

「今日は調子はどうだい?」
「脳波の、」

 酸素マスクが邪魔だった。

「検査したの?」

 頷くに留める。照井さんはニコッと笑って「あとで結果を聞いてみるよ」と言っているが。

「テイデン、とか、」
「低電位かな。頭痛とかどう?」
「…うん、」
「もう少しでリハビリ、始まるから」

 照井さんが握ってくれた自分の手が、震えている。

 ここは一人部屋で、都会から少し離れている場所。星はぼんやりと綺麗に見える、そんな病院。

 自分の持ち物に天体望遠鏡がある。どうやら自分はここに来る前、星が好きだったようだ。

 自分が何故ここにいるかは誰も教えてくれなかった。

「そうだ、悠くんに一つお話があってね」

 ぼんやりし始める、真っ白で、靄が掛かるように。

「退院したらお墓参りに行こうかと思うんだ」
「お墓……?」
「そう。君のお姉さんの」
「お姉さん?」
「みたいだよ」

 初めて聞く事実に、少しだけ意識が戻った。

「どんな人?」
「可愛い女の子。君のことを誰よりも大切にしていたんだって」
「…早く、直さないとね」

 照井さんは笑って「そうだね」と言った。

「…君はそれから俺の家に来ることになったよ。気恥ずかしいけど…お父さん」
「どうして?」
「さぁ……」

 照井さんはたまにどこか遠くを見つめる。
 「お父さんってほどじゃないか」と言うのに「お兄さん?」と訪ねれば、なんとなくだけど、悲しそうな顔をするのだ。

 自分が何者でどうしてここにいるのか、生まれたときからいるような気がするのだけど、数日前なんだそう。そして、数日は意識がなかった。
 身体は弱かったのだと聞いた。
 軽度の中毒と中度の障害。らしい。

 ぼーっとする。
 血と、酸素と、何かが足りない。

 照井さんは必ずといっていいほどに俯いて「ごめんね」と言うのだ。
 けれどそのぎゅとした感触をあまり感じない。低酸素だから、脳が認知しないのだと聞いた。

 その頭を撫でる左手だけはちゃんと動く。右手も、軽いものだったから、大丈夫になるんだと聞いた。

「照井さん、」
「ん?」
「何が、あったんだろうね」

 素直に疑問なのに。
 照井さんは「また今度ね」と言う。

「そろそろ面会時間が終わるんだ。悠、苦しくなったらちゃんと言うんだよ?」

 またこんど。

 頷いて、左の手を振って。酸素マスクが邪魔だった。

 いつも。
 毎日ありがとう、またね。

 それが言えないまま、また明日が来るのだと、照井さんの背中にそう、思う。

 もしかしたら、今日で最後、明日で最後、それを疑わない自分達は、なんでなんだろう。僕は見送ってそう考えた。

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