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 俺が睨んでいれば照井は溜め息を吐いてその場に座り「で、」と話を改めた。

「…今回は早かったね」

 無視。

「今朝は君だったよね、だってココアだったもん」

 無視。

「でもナポリタンじゃなかった」
「…あ?」
「何があったの」
「…知らねぇ」
「…何?今更言いたくないの?」
「そうじゃねえよ」
「覚えてないの?」

 無視。
 こっちが知りたい。
 これは昼夜逆転のような生理現象でしかないんだよ。

「うーん…」

 これを説明しろと言う方がどうかしている。
 所謂“二重人格”、『解離性同一性障害』なんてものを。

「ま…、」

 照井はあっさりと切り替え、「ゆっくりでいいけどさ」と、故意的に俺の左手を取り、また押し倒してはその手首を貪るように舐め始めた。

 俺も頭はおかしいが、そう、こいつも相当頭はイカれているのだ。

「大丈夫かお前」
「大丈夫じゃないの知ってんじゃん」
「久々に陽に会って欲情したかクソ医者」
「そんなとこ」
「はっ、」

 笑えてきた。
 薬は確かに、温かったのだけど。
 生温い、生温い、生温い。
 雨のような湿った血液が巡る、そんな感じで。
 俺とお前の潮汐破壊は進んでいる。

「…お前みたいな、世界中のレイプ犯と同じ身体の仕組みだけど」
「ならわかるでしょ」
「わかんねぇよ、」

 ぶっ壊れてしまえ。

 手を繋ぎ合わせたまま、照井はふと寂しそうに俺を見る。上げた前髪でよく、それが見えた。
 「そんな悲しいことを言うの?」と言う照井に「ふはっは、」と吐き捨てるように笑ってやった。

 雑音は雨のように降り注ぐ、
 かのように笑いが込み上げてくる。
 生命活動のような生理現象でしかない。
 慣れたことだった。

「まぁ、」

 ちょっとノッてやればいい。慣れたこと。その前髪すら鷲掴んで「お前、ハルが大好きだもんな、」とロリコンに言い捨てる。

 忘れない。
 まだ小さい頃の記憶だけは、どんなに健忘で薄汚れようと、絶対に忘れない。
 雨の雑音のように曖昧で水滴は窓にへばりつく。

「そうだよ」
「…絶対にハルは渡さない」
「…そう、だろうね」

 ハルはいつまでも俺の可愛い妹だ。
 俺だけのものに指を触れようなど、誰でも許さない。
 特に、お前。

 首を絞めるように、そんな仕草で首筋に触れ、こそばゆく耳に触れた手はだけど優しい。

 ぶっ壊してやろうかこのクソ野郎。気が狂って笑うことしか出来ないように、

「返して、ハルを」

 雨のように湿った怨念のような照井の低い声に身体が縮こまる思いがして、薄目で見れば性の悪い、夜の光に照井は笑っている。

「ふ、ははは、」

 笑えてくる。

 どうして俺は男だったのだろう。
 こんな、

 照井が俺の首筋を食もうとするのだけど、お前が首を絞めないのならと、俺が照井の首を絞める。
 じっとりとしたその視線に嘲笑が浮かんできた自分を知る。

 どうしてこんな、血生臭い生き物として生まれたのだろうか。

 そうしてまずは「痛いかな」と照井の背中に手を回し、至って軽そうに持ち上げられソファに投げられたのは「いっ…ははははは!」と笑うしかない。

 なんだっていいんだ、首筋に滑りがある。自分だって滑った息を吐く。
 辛うじて今度は立場なんて、例えば俺は組敷かれている、ジーパンだって器用に外されて中に手が這っていたとしても息切れ切れに「照井?」と肩に手を回してやったって「ははっ、あっ、はは…っ、」と笑いが止まらない。

 頼むから。
 いまはでもそうか、陽は俺の中で眠ってしまっているんだ、SL9と同じ関係、メティスやアドラステアと木星の関係に似ているとしたらこの足を滑る照井の手はなんだって言う、いいんだよ、なんだっていいんだよ、頭が、ジリジリする。呼吸だってこの手に与えられる気になる。

 俺は陽でいたい。
 ぶっ壊されたままでいたい。

「はは…っ、」
「…楽しい?気持ちい?ラリってるけど」
「ふっ、ん、ははは!いっ…」

 頼むよ、あぁ、もうあぁ、照井先生、俺実はどんなにオスであったって、女くらいの感性なんだよ、焦れったく、そうして野獣の目をして太もも噛まれるの、好きなんだけど股間くらい弄られなきゃ焦れったいらしい、勘弁して、もうどうにかして、あぁ、なんだろ。

「さっき、…噛んだから」
「うん。
 なんでも…いいから、俺は、殺してくれ」

何者なの一体。

 陽、ごめん。
 でも渡したくない。

「痛かったら言って」うっさいんだよ変態ロリコン野郎。

 息が荒くなる。
 じんわりと血液が巡るような、そんな感じで。

 だから、破壊しに来てくれ。陽、俺はロッシュ限界で待ってるからと、照井の先に陽を見て、泣きそうにLEDを滲ませて頭を抱えた。
 髪を掴んだ左手にある陽の痕跡に、漸く力を抜く気がして。

誰が、報われるって言うの。
 そうだね。黙って寝てろよ陽。お前は一生処女でいい。それがいい。だって…。
 俺とお前の結合力は俺しか知らない。

 あまり話し掛けるとまた変わっちまうかなと、腹にある生温い照井のこそばゆい舌に「ひっはっは、」と笑うしかない。

笑うしか、ない。
 耳鳴りと頭痛をぶっ壊すように。

 寝そうな人生に瞼を閉じた。暗闇はすぐそこに、眩暈として蠢いていた。

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