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「楓、起きてる?」

 天井、覗きこんだマーサに「起きてるよ」と答えて、安心する。

 もぞもぞと布団に入ってきたマーサは「寒いね」と言ってから布団のなかで俺を抱きしめ、咳が止まるまで背中を撫でてくれた。

「薬切れちゃったかな」

 飲んで大丈夫だっけと言いながらマーサは引き出しからエフェドリンの瓶を取り出し手のひらに一粒空ける。

 錠剤と俺の顔を見比べたマーサは錠剤を口に入れ、そのまま口移しで奥まで舌をいれてくる。支えるように腰に大きな手のひらが触れる。

 あっさり離したくはないが、喉は苦しい。マーサが舌を抜いてから薬を嚥下した。

「疲れも少しは取れるかな」
「あとでどっときちゃうね」

 俺が笑えばマーサは「細いなぁ」と腸骨から滑り、太腿に触れ、首筋にキスをする。
 じわりと、疼くように触れた箇所が甘い。切ないほどに。
 足の間に滑り込んだマーサの片足の体毛がじゃりっとした。

「まぁ、体力は俺と同じくらいにはあるかなぁ?」
「…流石にないよ」
「でも寂しそうな顔してるじゃん」

 鎖骨に息が掛かる。

「ん…、そうだね」
「効いてきたらもっと欲しくなるでしょ」
「…うん、きっと、」

 無骨な肋骨に暑い指先が触れる。ゆっくり、ゆっくりと一本一本撫でるように。

 薬を飲めばなんとかまた熱を求められるこの体力は、女子でなくて得をしたとこっそり思う。きっと、マーサはそう言ったら確実に悲しむだろう。俺がこうして細胞を壊してまでマーサを求めることを。
 だけど、疲れてはいる。自分が望むよりもあと一歩、体力が足りなくて。

「…まぁさ、」
「…どうした?」

 息が、荒くなっていく。
 アルカロイドまでまだ遠い。もう少し、ゆっくりと、殺されるまでこの息を吸っていたいと痺れていく。

 弄ぶように舌で乳首を転がされても、少し感覚が麻痺しているようだ。

 少し深めに息を吐いて「素股でもいい?」と訪ねてみる。

「いいよ」

 なのに濁りのない笑顔でそういう優しさも、暖かいのに切ない。この感情をやりきろうと、唇を噛んで痺れに耐え、マーサの背を撫でる。背骨の筋が手について心地良い。

 動き止めても「間違えて入りそうだなぁ」とキツく抱きしめるマーサの熱を、確かに際どく挟み込んで。
 自分の熱さも、マーサの腹の鼓動を感じた性器がそろそろ、痺れを解こうと足掻き始めている感触がした。
 それを見たマーサが「よかった」と甘く呟く。

 心地良かった。

「楓」

 酔ったような瞳で言う、「好きだよ」が、鼓膜に響いて。

「うん…」
「だからさ、」

 行かないでね。
 その優しい言葉も聞こえてくるほどに体温が近かった。
 ゆっくり、息を吐いて。
 気管支が夜空の先に染まっていく。肺が溺れて苦しく、悲しくなる気がする、それが甘い。
 マーサごめんねと、声なくまた愛しくなった。

 風呂は大丈夫なんだろうか。

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