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「マーサは覚えてる?人類滅亡の話」

 ぼんやり、ゆったりと過ごしたあと、楓は眠れない布団のなかで微睡みながらそう言った。
 痺れる、クラッシュアウトのような後遺症なのかもしれない。
 あまり覚えてないけどねと真麻は隣の布団からもぞもぞと楓の背を抱き締める。

「結局12月31日まで、どうなってしまうんだろうと俺は思ってたんだ」
「うん」

 どんな表情なのかは互いにわからないけれど。穏やかに、もしも世界の終わりがあるのならこんな瞬間が良いと思える。

「子供ながらに、母さんと一緒に…守れたら良いかもしれないだなんて思ってたかもしれないけど」
「うん」
「多分本当は違かった。憂鬱に負けそうで、どちらかと言えば一緒に無くなりたいと、思ってたんだよ」
「俺はどうだったかなぁ…」

 血液は徐々に、融解するようにゆったりと巡っていく。
 背中から伝わる鼓動も、腕で感じる薄い呼吸も、酷く穏やかで時を待っている。

 こんなことに安心と寂しさが同居するのは、そこに見えない酸素があるからで。

 重いような沈黙が続いた。顎の下にある楓の頭に、α波の微睡みが側に広がる。
 暖かい。寝てしまっただろうかという寂しさにふと、「真麻、」とはっきり楓が呼んだ。

 体温は、気が狂いそうなアルカロイドを接種する。

「終わっちゃおうか」

 θのように、穏やかだった。
 沈黙して海馬が開いていく。

 潜在意識が働いてきて、言葉や気持ちが巡回していく。そして「真麻」とまた穏やかに言う楓に「別れないよ」と無意識下で発声した。

 楓が腕の中で振り向いて、真麻を見上げる額にキスをして、「絶対に別れないし」と確かに覚醒した。

「どうしてそんなことを言うの」

 答えない。

 その真空はどこまで行ってもわかるわけがないだろうと考えてみる。
 真空の先に手を伸ばしても、錠剤と、血塗れで、落としたものなんて言葉はおろか、見つからないとわかっているのに叫びたくなる。

「…だって、」
「けど、初めてかもね楓」

 流石に別れようと言われたことは、多分なかった。

「…うん」
「どうかしているんだよ、楓。暗くて、」

 ただ怖いだけなんだけど、君はどうして反響よりも、その穴へ落ちていこうとするのか。
 反響に溺れてみたって自分の声なのに。だけど俺には確かに、その空虚は見えないんだろう。

「そこには星は見えるかい、楓」
「…何が、」
「その落とし穴だよ。暗くて、寒くて。でも見上げてみたら、どうなんだろう」
「何言っているかよくわからない」
「多分俺はその闇に、ロープを投げるような存在じゃないんでしょって話」

 あの星空と、伸ばされた手を思い出した。
 ロープというなら束縛してしまったような気が、ずっと絡まって仕方がない。

「はぐらかしてるの?」
「いや。眠くて少し景色が見えた」
「起きてよ、ねえ」

 見つめてきた真麻は確かに、何を写しているのか不透明だった。怒っているのか許してくれているのか。
 だから告げる、「そんなロマンは女子の方が喜ぶでしょ」と。

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