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ひとつ、青P先輩は欠伸をしながら校庭を眺めている。
ふと、青P先輩のズボンの裾から少し覗いた右の細めな踝から上に一本線が走っているのが見えた。手術とか手当ての、ケロイドのような線。
俺は保健室での鳴海先輩を思い出した。先輩は今日、この後部活には復帰するのだろうかと頭を過る。
微妙に校庭が見え、無意識に窓の外を覗いていると、「放課後じゃね?帰らんの?」と青P先輩に言われてしまえば「ああ、はぁ…」と曖昧な返事になる。
先輩も「まあいいけどね」とまた言う。
どうしようかなと思い浮かんできた話題もないけれど「先輩は」と口走ってしまった。
「ん?」
「あ…いや…。
先輩は帰らないのですか」
「退屈だからねぇ」
「ん…」
「家帰った方が退屈ってやつ。バイトしようかなそろそろ」
「んー?」
「んー…しなみくんはバイトしてないの?」
少し間があったのを察し「あ、志波です」と名乗り直せば「どんな字?」とぼんやり聞いてきた。
「志と波です」
「あんまいないよね多分」
「みたいですね」
「あ、俺青P理人ね。3年1組」
「りひと…」
なんて読むんだろうと思ったら、りひと、か。
1組って確か、1年ではスポーツ特待クラスだったような気がするんだけど。
「…特待生、なんですか?」
「んーまあね。こう見えて」
「いや…」
「多分特待ぽいやつじゃないよね俺」
ニコッと笑った青P先輩の八重歯は印象的だった。
「運動は出来そうです」
身長は普通だけどなんとなく、体つきなんだろうか、雰囲気なんだろうか。
青P先輩に「志波くんはなんとなく不得意そう」と言い当てられた。
「え、あ、はい…」
「俺は逆に運動しか出来ないわ」
「え、でも特待ってこの高校、凄いって入学のときに聞いた気がします」
「急によく喋るなぁ」
青P先輩はまた校庭を眺めてそう言った。
それでなんとなく、足の傷だって見えたのだし、部活は行かないんですかと言えなくなってしまった。
帰るのもなんだか微妙な空気だし、半分くらいしか見えない校庭を眺めれば「ん?」と青P先輩が俺を見る。
「…こっち来て見れば?てか、何見てんの?」
「ん?」
「あ、ぼっとしてた感じ?」
「あぁ、いやまぁ…」
答えも聞かずに、もう何度目か校庭を眺めて「あぁ、」と呟く。
「あいつ…」
それだけだった。
ただぼんやり眺めているのだろうか。
もしかして青P先輩も陸上を眺めていたりして。他の部活なんてサッカーと野球。その何割が1組かは知らないけれど、鳴海先輩と青P先輩が同じクラスである確率は高いかもしれない。
「先輩」
「ん?」
青P先輩は校庭から目を離さない。
「鳴海先輩をご存じですか?」
「あぁ、あれだろ。知り合い?」
「いえ…」
「まぁ有名人だもんな、あいつ。体育大から直々にまた特待だって言うし」
「え?そうなんですか?」
「え?」
やっぱりそんなに凄い人なんだ、鳴海先輩。
それであの怪我は大丈夫なんだろうか。
「…まぁ、そっか、運動苦手だと興味も沸かねーよな。ん?けどそれじゃぁ鳴海がどうしたんだ?」
「いえ…まぁ、たまたま会ったことがあるだけなんです」
「そうか」
生返事なくらいには青P先輩は外に集中しているようだった。多分、陸上部を眺めているのだろう。
鳴海先輩の表情は、俺の位置からは見えない。けれどなんとなく、いつも通り爽やかで何事もなかったように部員と接しているのだろうと伺える。
俺と青P先輩の間には間が生まれるのだけど、校庭からは部活動の遠い音が聞こえる。
目が合う瞬間は勿論あって、まぁいいかと鞄を持ち青P先輩の隣で陸上部を眺めることにした。
青P先輩の隣に座ると先輩は「お?」と何かに気が付き一通り俺の全身を眺める。
「近くに来るとやっぱ少し小柄なんだな」
「あ、まぁ」
確かに、手摺りに腰掛けた先輩と俺は同じくらいの身長のようだ。差は10センチくらいなのかな。
「座ってみ?」
と楽しそうに言う青P先輩に少し恥ずかしくなったけれど隣に座ってみた。俺は踵が床から浮き気味だった。
「いくつ?」
「えっと身長ですよね」
「うん」
身長は少しコンプレックスなんだけれど。
「…先輩はいくつですか」
「あー、そうねぇ、178」
「…大きいですね」
「そうかな…?うーんそうなのかも。意味なくデカいのかも」
嫌味も感じられずにあっさり青P先輩はそう言う。
なんだかそれに「ははっ、」と笑ってしまった。
「いいなぁ」
「ん?そうか?」
「大きいに越したこと、ないじゃないですか」
「そうでもない。けど志波くんは安定しないらしいなぁ、これ」
そう言って青P先輩が腕をまわして俺の腰を掴むのはがっつり、安定感があった。
「細いね〜」と言われるのも少し恥ずかしい。
「好き嫌い多い人?」
「いや、」
「というか降りて見ればいいんだ、座らせておいてなんだけど」
「あ、はい」
言われたので、その座りにくい手摺りから降りた。
青P先輩と同じ身長に戻る。さっきよりよく陸上部が見えた。
鳴海先輩はいつもと違い、ゆっくり少しだけ走っている。しかし、部員は少なかった。もしかすると皆、外周に行っているのかもしれない。
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