7


 手摺りから降りた俺をじっと眺めてる視線に気付いき「ん?」となったのだけど、夕日になりかけオレンジに照らされた青P先輩からは「彼女いる?」と、全く予想していなかった質問が飛んできた。

「え、」
「いやなんとなく聞いてみた」
「そうですか…いませんよ」
「え、そうなの?」

 聞いてきたわりにそんな意外そうな反応。なんだか、この人変わってるなぁと思いまた笑ってしまった。

「先輩はいるでしょう、きっと」
「いや、バカだから今はいない」
「え?」
「うん」

 バカかどうかで彼女って決まるんだろうか。

「いると邪魔になることあるし」
「…うわぁ」
「いやほら、スポーツってそういうことある」
「なるほど…」

 それはなんだか納得する理由というか、真面目な理由だ。
 少しだけむず痒い。

 そろそろ陽射しが暗くなってきた。
 図書室の先生が、「そろそろ閉めるよ」と司書室から出てくる。
 青P先輩も手摺りから降り「帰るかー」と伸びをした。本当に大きいなと再確認。

 青P先輩はちょっとだけ目線を下げ、ふと俺の頭の上に手を置き「16…5センチ」とボソッと言う。
 すぐ手を離し、何事もなかったかのように散らばっていた課題を鞄に入れ始めた背中に「167です」と答えてみた。それに青P先輩は振り向く。

「…あそう、外れたか、残念」

 さして残念でもなさそうな口調で言ったのだけど、青P先輩の表情はなんだか少しだけ柔らかいような気がした。

 下駄箱の棟も違い、1階で「サボんなよ、じゃーな」と青P先輩が素っ気なく言って別れたのだけど、校庭、陸上部の鳴海先輩と話し込み始めたらしく、またすぐに会うことになった。

「あっ」
「あっ」

 そう互いになるのだけど鳴海先輩は「あぁ、昼間の」と笑いかけてくれた。

 覚えていてくれた。

「あれから具合は大丈夫だったんだね」
「はい、先輩も…」

 鳴海先輩の笑顔は少し曖昧になった。
 やっぱりまだ良くないらしい。

「志波くん、昼間に会ったばかり的な?」
「え、はい」
「青Pと知り合いなのか」
「いや、俺らもさっき会ったばっか」

 鳴海先輩がとても不思議な表情になるのだけど、青P先輩は構わずに「で?」と鳴海先輩に振る。

「はは、青Pはやっぱり手厳しいな」
「そうでもないだろ」
「…まぁ今日は流しってところだよ」
「それがいいだろうけど思いっきりやっちゃってねぇか?鳴海」
「…そうでもないない」
「まぁ知らねぇけど」

 素っ気なく言いながらも青P先輩は鳴海先輩の右足をちらっと見下ろしている。
 それに鳴海先輩は「あぁ、降参降参」と両手をあげた。

「…靴を変えたら合わなかったようで」
「靴の問題かなぁ」
「…敵わんな、青Pには」

 鳴海先輩は苦笑いをする。

「今日はまぁ、そろそろ帰ろうと思ってたから」
「ふーん、まぁそれが良いと思うね」
「……青Pは、どうだ?」

 それに一瞬間が空き、「可もなく不可もなく」と青P先輩が答えた。

「…そっか」
「…あと一週間くらい?部活」
「そうだな。そこからはその…なんだ、特別枠というか」
「特待ってすげえな」
「そうだな。…なぁ、青Pは…大学どうするんだ?」
「はは、まぁ行かないっしょ。
 取り敢えず帰るわ、鳴海も帰れよ。あとまぁ悪かったっつーことで」

 ふらっと顔も見ずに手を振り去ろうとする青P先輩に鳴海先輩は「俺も、」とだけ言い残した。

 なんとなく俺も頭を下げて青P先輩の後ろに着いて行くようになったけど、少し気にすれば鳴海先輩は俯いているように見えた。

 青P先輩は俺を見て「えらく不思議そうな顔してんな」と、さっきより穏やかな表情で言う。

 確かにいま不思議で仕方ない。

「いや、まぁはい…」
「顔に出やすいって言われない?」
「いえ、…多分一度も言われたことないです…」
「あそう…」

 そこで途切れるとお互いに気まずい気はするのだけどお互いに持っている話題などあまりない。
 自然解散のような流れでもないから困りそうだけど、「家どこ?」と、結局青P先輩が普通に振ってくれた


「電車の人?」
「あ、はい」
「上り?下り?俺も電車の人」
「上りで1駅です…」
「あ、俺と3駅違い。俺下り2駅」
「えっと…」
津田沼つだぬま〜」
「あー…お互いに終点か始点になりやすい駅ですね」
「あ、そうだな」

 我ながらやはり話のセンスがないと思う。
 青P先輩もそう思ったのか「てか…」と地味に徐々に笑い始めた。

「ナニソレ!」
「自分でも変なこと言ってるなって思いました」
「あはぁ、まあ気持ちはわかるけどさ。俺も考えたらそれなんて返すか不明だわ」

 と言いつつ「ふはは」と、どうやらツボに入ってしまったらしく笑っている。

 なんだか、少し接しやすい人。正直だからだろうか。

- 59 -

*前次#


ページ: