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「なんのつもり?」
恐らく、そう言い捨てる俺の表情は酷く歪んでいるのだろうと自覚するほどに、状況は滑稽だった。
自室のベットの上でブラウスを脱いだ制服の彼女は唖然としたように「え?」と目を丸くし俺を見ている。
確かに、わかっていたはずだった。
それが初めてだとしても、これまでに恋人は2人ほど作ったのだから。
ワードは「親がいない」だとか「家、学校から近いよ」だなんて、分かりやすかったというのに、いざとなったらこれなんて。
白いブラジャー、か、わからない。もしかすると淡いピンクかもしれない。いずれにしても清楚な女がいままさにと言うのに、俺にはそれから先がひとつも想像に及ばないのだ。
彼女は俯きがちに「えっと…」と言う。
「…その、」
最低だな、不感症の意気地無しめとどこか心で自虐するくせに「どうしたの?」と嘲笑うかのように彼女へ言うのだ。
童貞を捨てるかもしれない状況の癖に頭の中で誰かが言う気がする、糸はもう切れている、違うな、と。
「あ…の…」
だから黙っていることしか出来ない。
「ヨシくん、は…」
「うん」
「い、家に来た…し、」
彼女は徐々に泣きそうになりどうしようもなさそうに、ふさっとベットに置かれたブラウスを掴んでいる。
「そ、えっ…、てっきり」
「俺たちってそういうことなの?」
「え?」
「家に行ったらセックスするような」
「…え?」
だがそれも酷な話だ。
俺は自分がいま偉そうに座っているデスクの椅子から立ち、彼女の横へ座り直しては「風邪引くでしょ」だなんてそのブラウスを肩に掛けてやる。
我ながら何も笑えないし最低だという自覚もあった。
仕方がない、微塵にもその気が起きないのだから。
「そ、」
彼女は恥ずかしそうに俯いて取り繕う、「ごめんねっ、」と。
この人は俺に何を謝ってるというんだろう。
「そ、だよね…、早かった、よね?」
本当はどこかでわかっている。そんなものに遅いも早いもないのだということを。
俺は少しだけ表情を緩やかにした、つもりで、彼女の肩に掛けたブラウス、「腕を」と言う現象。
淡々とブラジャー、臍にもカーテンを掛けるような心境で彼女にボタンを掛けてやる。
その先輩だった彼女とは予想通り、それからすぐに別れてしまった。
彼女の「別れよう?」という曖昧に疑問系な一言に「うん、」の一言だけで、そういうもんなのか、と理解する。
気が合わなかった訳ではないと、二人で聴いたロックを思い出してみたりするし、キスは散歩した公園で俺からだった、ような気がする。多分そのキスはなんとなく流れや雰囲気で自然な互いの了承だったはずだ。
別れてみるとそうして「不思議だな」と納得が出来る物ではないのに「仕方がないな」と妥協や諦めに似るのだから、本当に薄情でしかない。
俺は一体どうして、平坦なのか。
自然現象を眺める心境な癖に全く自然の摂理に逆らっていた。
そこに恋愛があれば当たり前にクラスメートは「どこまでいったのか」という話になる。
どこまで、とはなんなのか。
どんな答えがあればまわりが納得するかはわからない俺は「そこまでいってない」と曖昧な答えをするしかなかったのだ。
疑問は解決しないままに次の彼女で俺は童貞を捨てた。確かに衝撃的で一過性のエレクトリックな世界を知った。
その彼女は処女だった。
「最後までいったよ」
それには3日にして「早い」と同級生は言う。
そうなのかもしれない。端から最後というのが目的であれば簡単だという安易な子供の発想も捨て去ってしまったのかもしれない。
彼女はそれでも俺を好きでいてくれたのかもしれない。だがそれは絡み付いた、自分を離さない粘膜のようだった。
何度も、なんでも求められていくようになることに疲れや互いのズレに冷めてしまい、その彼女ともすぐに別れてしまった。
俺はそれで“まわり”、“クラスメート”として手を伸ばしていた範囲の人口密度を減らしてしまったようだった。
俺はそれを一過性なものだと捉えた。誰と付き合おうが付き合わなかろうが気持ちに詮索をする必要がない。自然はそれでもそこにあるのだから。
身軽になってしまった方が経験が増えた、という事実あった。
一過性が発作のように何度も起きるというのはそれなりに体力を使う。
「真麻は寂しくないの、私と別れるの」
高校生活最後、卒業式の日に彼女に別れを告げた際、そう言われた気がする。
その彼女は俯いて泣きそうだった。
「やっぱりそんなに好きじゃなかったの」
別に好きだとか嫌いという話ではない。
卒業と銘打って俺は所有地を全て解放したい、その思いの方が強かった。
俺がその彼女になんと答えたか、いまいち覚えていない。何も答えなかったのかもしれないけれど、たまにふと、大人になっても最後の制服姿が浮かんでくるときがある。
彼女と別れた俺は、普遍でなんでもない大学に違和感を持ち越し、進学した。
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