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「なんで、とか、どうして、とか…」
「まぁ、そうだねぇ」
「俺は君に酷いことをした」
「うん、そうなのかもしれない」

 淡々と言ったけれど真麻は「攻めてる訳じゃないんだよ、楓」と答える。

「始めからそうで、トラウマのような気もしてる。けど本当にそうかなぁ、と、刺激なんて味も音も、変わっていくでしょ?」
「…確かにいま飲んでるの、ジントニックじゃないけど…」
「やっぱりリッキーだったかぁ、頼んだあと思ったわ」

 そもそもそんなに二人で飲みに行ったことないな。そんなに辛いタイプだったんだ、そんなに甘い方だったんだ、と互いに思う。それを思えば「ははは…」と、やはり自然な感じがしてしまう。

 抗わず、けれど従いもしない流れに、「怒らないの?」と楓が切り出した。
 「許さないよ?」と言う真麻は優しい。

「あ、うん、そうだそう言えば」
「ね、そうだよね?」
「…ハイ」
「でもまぁさ、考えたよ。俺は楓の何を知った気になってたんだろうと。多分そのすれ違いは始めから楓の方がわかってたでしょ」
「……どうだろ…」

 やっぱりね。君はすぐ曖昧になってしまうんだよ、多分。

「けれどまぁ、俺の事だってどうかなぁ?があったと思うんだよね」
「…うん、」
「…取り敢えず、まぁ…うん…」

 間があった。
 間がありすぎた。次の言葉が痞ている。

 脳内でぐるぐると廻る、どうしようかなとさ迷っている。初めてなくせにこんなにも神経質になるものなのか。
 早くとどめを刺されたい、けれど息を飲んで待つしかない。いつか、それを望んでいたような気がする。

 それを互いに言っていいのか、そんなことを知っているし、けれどわからない。

「…友達からとか、どうですか」

 予想外の真麻の一言に「…え?」と楓は驚いた。
 じわり、じわりと溶ける血液に、「あ、あのてい良くな感じじゃなく」と真麻は付け足す。

「俺、そうやって」
「…友達なくしちゃうタイプだから、ですか?」

 楓がそう聞いてきたのに真麻は驚いたけれど、「ふはっ、」と、漸く楓は笑ってくれた。

「そ、それって、意味あるかなぁ」
「うーん…自分でも笑えるくらいどうしょもねぇかも…」
「そんなん、3日で終わりそうだよねっ、」

 でも、そうか。

「始めからやるにしては、不確かだった気もするし」
「…あぁ、確かにそうかもしれないね」
「お返事はなんとなく手順を踏んで、この場で頂きたいのですが」
「うん、そうだねぇ。
 俺はそう、君になら殺されてもいいかな、と思います」

 なんなんだそれはと、瞬時に脳内が侵食されていくが、徐々に、徐々に、その侵食は麻酔のように痺れを解し、神経回路は目尻に誤動作して「うん、」と真麻の視界は溺れそうな、世界で。

 そんな真麻を見て楓も、アルコールが身体をまわるように、熱くなりぼやけていってもこの広がる暖かさは自分を緩やかに、痺れさせていくのだなと、「ははっ、」と、震えて溺れそうな笑いが出た。

 アルカロイドは、柔和な条件においては、大体が氷のように無色な結晶である。
 麻薬のようなこの感情は、どこまでも遠く、どこまでも果てしない。それは時に甘く、時に辛い。

 どうだっていい、殺されるまで、混乱していよう。鮮やかな呼吸を止めるまで。

 確かめた二人は、同じ色で、この先を見つめ合った。

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