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「…だから、なんですか」
「…だが俺は君を想像して抜くんだ」
「アウトですね南沢さん」
雨川としてはもう絶句でしかなかった。それは一体なんだ。
しかし南沢は構わない。少しセンチメンタルをこいた目で雨川を見つめるのだった。
「だがどうしてだろうね?堪らなく苦しいんだよ雨川くん…。この気持ちはわかるだろうか、俺は堪らなく苦しくなる、快楽の後に。この賢者タイムなるものを君は知らないのか」
「…なんなんですか」
「気持ち悪いだろ」
「はい、死ねばいいのにと思います」
「だよな。俺って気持ち悪いんだよ。何故だろうな。女は不浄だと思うなら何故だろうな、君は綺麗じゃないか、その点」
何が言いたいと言う。
「何がおっしゃりたいのですか」
「どうして胸が苦しいんだろうな」
そりゃぁ…。
「…南沢、若干というか相当論点が」
「説明つくのか葛西」
「そりゃぁどこから突っ込むべきか、「お前に欲情する」とか言われたら…」
「お前だって言ってた」
「いや、まぁ、あの、その…」
ノーベル負けたか、と静観する喜多は思う。
おおよそこの男が言いたいことはわかるが、いま泣きそうになっている雨川の気持ちも充分にわかる。
これは潰しに掛かってしまっていると危険を感じた。
「南沢さん、あのね。確かに自分が邪魔なんじゃない?って僕は言ったけど」
「要するに俺はなんか、なんなんですかみんなして」
脱力するように雨川が言った。
「…そうっすね、もう、嫌なくらいに女性ですよね。中途半端に、どうしていいかわならないままに、」
「真冬、だから」
「認めればいいんですか、それで満足ですか?俺も一緒に気持ち悪いですって、それでいいですか南沢さん」
「…そうじゃなくて、」
「そうでしょ?」
嘲笑うかのように、だけど一粒涙を流して雨川は言い捨てる。
「…じゃぁ、この気持ちはなんなんでしょうね南沢さん。この身体はなんなんでしょうね、俺が生きてきたそれはなんだったんでしょうね!」
「だからそれは…って一回聞けよ、」
「死んじゃえばいいのに」
ハッとした。
なにも、
「…普通に生まれ生きてきたあんたにはわからないっしょ。でも当然ですよね」
「…それを、」
「一緒に解決したいだってぇ?笑わせんなよクソ野郎」
刺さった。
だけどもう少し。
「…自分を愛することは出来ないのか、真冬」
「あんたもね」
それだけ言い残した。
雨川は全てをそこに残し、落胆のまま去ってしまう。
追いかけなければと、思うはずなのに。
「バカを通り越してるお前」
葛西にそう言われてしまった。
何も言い返せなかった。
呆れた葛西は溜め息を吐いてその場の椅子へテキトーに腰かける。
「セカンドレイプだと思うけど」
「鶫ちゃん、」
「雨川は…」
俯いて拳を固めた南沢が言う。
「…俺の兄貴がああしてしまった」
「は?」
「被験体として、幼い頃から…」
ホルモンを変えてしまった。
物理的な話だが葛西は「…は?」と理解出来ないでいる。そんなことが果たして人間で可能か…。
いや。
そんなことをするのか、普通。
「…君もわかってこれを持ってきたんじゃないのか」
「何言ってんの?だって」
「けど事実だ。
小さい頃に…雨川の両親は死んでしまった。どうやら、天文学で有名だったらしい。
うちの父はあまり家にいなかった。だが、生物学者だ。俺も兄も父の、ラットの解剖だとかを見て育ったようなもので」
学者の息子にはある話だろう。現に葛西には経験がある。だが、喜多には少し遠かった。
「兄は好奇心旺盛だった。小さい頃からハムスターを飼っては殺してしまう男で、だから俺は|齧歯類《げっしるい》がずっと苦手だ」
「うーん?」
「致命的じゃないですか南沢さん」
「いや、齧歯類を見たからと言ってトラウマ発動PTSD的なものはない」
「だろうね。そんなんだったら学者、しかも生物学なんてやらないよね」
「兄は君以上に変態だったんだよノーベル」
「…今更だけどノーベルってやめねぇ?」
「いや鶫ちゃん、余計なこと言わないでこの人話が進まない」
「あそう?結論言えば雨川はだからその…性倒錯があるんだが」
「すっ飛んだー。雰囲気でわかってきたところすっ飛んだー」
「はい、こうなっちゃうから鶫ちゃん黙って。話したければ南沢さんがハムちゃん苦手なところからどうぞ」
喜多が促した。南沢は「あぁ、えっと」と話を戻す。
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