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「おやおや?」
楽しそうにいうソラに南沢は嬉しそうに「ほら見て」と、繋いだ手を上げ見せびらかす。
「…南沢さんそれ限界」
するっと手を抜いた雨川に「ありゃー」とソラははしゃいでいる。
「仲直りしたのネ」
「したした〜したよソラ〜」
「じゃぁアイスあげるね!」
雨川は顔を上げられないままだが、南沢は「ありがとソラ〜」と、ふにゃっふにゃしていた。あり得ないこの人と雨川が思っているなか、「はい、ドーゾ」とソラが棒アイスを持って雨川の隣に座った。
ソーダのアイス。
顔を覗き込むソラが「おいしーよ」とにかにか笑っていた。
三人でアイスを食べる。冷たい、人工的な味。無難で不味くもない、そんな。
食べているうちに棒から茶色い字が見えた。
「あっ」
「あたった?マフユちゃん」
「うん、あたった」
「もう一本だよマフユちゃん」
「すげぇ…ホントにあるんだ」
「持ってきてやろうか?」
「いや、いまはいいや。これって確率どれくらいなんですかね」
さぁ…という南沢はそれほど興味もなさそうだったが、そうか、それほどレアでもないのか、そう感じる。
「ごちそうさま」と雨川が包装にその棒を入れると「捨てちゃうの?」とソラは無邪気だ。
「…まぁ、」
「もったいないよ、」
「うーんでも口つけてるし。
じゃぁ、あと一本はソラが覚えておいてよ」
「んー?」
「食べちゃってもいいよ」
「わかった、覚えとくね」
「ははっ、」
楽しくなってくる。
楽しそうだね、という南沢、ホントにそうだねと言うソラ。いま両サイドはこうして、楽しいことがある。
それが広大すぎて、今、以外。どーでもよくなってくる気さえした。
何がどうなってもどうやら自分はいまこれが心地よいらしい。それがひとつわかった。
ソラといつまで一緒かも、南沢とどうするとかも、まだまだわからないし、いずれ解明するのかもすらわからなくても。
「うん、楽しい」
早く気付いてしまえばよかったのかもなぁ、長く時間は掛けてきて、これからも掛かるけど。当たり前にそうして未来を考える現象は、星空を見るそれに感覚が近い。
「なんか、ま、いいか」
その一言に「そうだね」と南沢が、抱き寄せるように頭を抱えてくれる。それは、側で暖かいものらしい。
「今日は疲れたし休もうか。もうソラも寝る時間だしね」
「もちょっと起きてる、アイス食べちゃったから」
「はは、まぁ今日くらいは好きにしていいよ。一日くらいじゃ太らないよ」
「んー…」
そんな教育をしていたのか。
そういえば、そうか。
同じ場所にいて一番近くにあるものをよく知らない。どう認識するか、まだまだ、わかっていないのかもしれなくて。
ならば自分の立ち位置など、端からわかるわけがなかったのかもしれない。
…結構、当たり前で初歩的なことが出来ていなかった。
水槽が目に入る。
その小さな世界は、いつでも溢れそうな飽和状態なのだから。
ソラが「寝るー!」と無邪気にベットヘダイブしたのだけど、「歯を磨きなさい」と言うのも不思議な気がしてしまい、やめておくことにした、今日だけは。
どうしようかという目で南沢は見るが、「まぁ、」と雨川は笑った。
「明日は南沢さんも普通に休みですか」
「うん」
「…手始めに三人でどこか行きましょうか。エビ吊りでも、まぁ、なんでも」
「まぁ良ければ…君の趣味にもたまには」
「結構です。大体は一人で済むものですから」
「そうか…」
少し感慨深い南沢が「…長かったね」と、ポツリと言った。
「きっと」
「…まぁ、南沢さんもそうでしょうから。
おやすみなさい、疲れました」
「そうだね、おやすみ」
素直に南沢はソファへ寝る体制になった。
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