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 流星を送り出した日、家に帰ってすぐ、だぼだぼなシャツを着て出迎えてくれた野良猫は。

「雨さん?」

 あどけない顔の、少年。わりと整った顔をしていた。

「ただいま、潤」

 ホームシックな彼は、すぐに温もりを欲しがる。帰ってきたら玄関先で一度ハグをするのが、彼を引き取ってからの雨の日課になっていた。

 そうすれば、不安な表情が拭えるはずだった。

「雨さん」

 だが、今日の彼はどうも、まだまだ不安な表情で。

「どうしたの?」
「あの、」

 ふと、リビングをちらっと見る潤に、不穏な違和感を覚えて走るようにリビングへ向かうと。

 ずれたテーブルに無造作に置かれた封筒が目に入る。封筒を見てみると、「|栗林《くりばやし》|敏郎《としろう》」と直筆の、分厚い出港命令の書類だった。

「…置いてった」
「彼が?」

 ゆっくりと潤が頷く。
 あぁ、なんてことだ。

「怪我は?」

 答えない。

「潤、」
「大丈夫、雨さん」

 そう言って泣きそうになっている潤を見て、怒りと憎しみが沸いてくるのがわかるわ。

「大丈夫」と言うときの潤は、大丈夫なんかじゃないからだ。

 だが責めることは無用だ。とにかく今は、優しく抱き締めて不安を取り除く以外に出来ない。

「雨さん、」
「…潤。
 僕は、君のヒーローには、どうやらなれないんだ」

 ホント、嫌になっちゃうなぁ。

「雨さん、俺は…」
「なんとなく、君の行く先は決めたんだ」
「どゆこと?」
「警察学校。大丈夫。栗林のとこなんかじゃない」
「え、でも」

 これしかない。

「18までは、一緒にいたかった。せめて入学までは。なんとか君の住む場所を、探すから」

 いつかは、覚悟はしていたけど。

「雨さん、大丈夫?」
「僕は大丈夫だ。潤、今日はもう寝よう」

不穏だ、凄く。

「雨さん、なんか、嫌だな」
「ごめん」

 やはり、憧れるんだ。
 樹実。僕は君のように、エゴだけで生きられるほどにはどうやら強くないらしい。

「泣かないで」
「泣きたくない」

 こうして君のようにエゴだけで子供一人引き取っても。泣かせてばかりいるから。
 最後に熱海は手紙を書いた。

 その手紙が、一年後の出会いに、発展することとなる。

 全ては、後から樹実が知ることになる事実だった。

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