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「何をしてたんだお前ら」
案の定、教官に怒鳴られた。
「はい、すみませんでした」
「すみませんじゃないんだよ。
大体壽美田、お前は呼びに行かせたよな」
「はい」
教官室にて二人揃ってお説教。
「すみませんでした」を連発しているが、あまり効果がない。
「で?二人でサボってたわけか」
「まぁそうなります」
「そうなりますじゃないんだよ!ナメてんのか貴様!」
ついには教官、ブチ切れて机をぶっ叩き立ち上がってしまった。
「あ」
にも関わらず、興味なさそう、というかダルそうに星川がふと緊張感もない声を発する。
「なんだ!」と言う教官の鼻を指差し、「鼻毛出てますよ」と真顔で言うもんだから、教官は思わず固まり、そして震え、
「わかってるわぁぁぁ!お前人の話聞いてんのかクソガキがぁ!」
怒りの導火線に火をつけるどころか、敵戦地へ勝手に手榴弾を投げ込んだらしい。厄介だ。取り敢えず一度流星は星川の裾を荒く引っ張って制する。
今はダメだ不利だ。悪いのは我々である、わかってくれ。
「ナメてるよな完全にナメきってるよな貴様ら!」
「申し訳ありませんでした」
ワンランク上謝罪。取り敢えず早く帰りたい。
「申し訳ないだ?何が申し訳ないんだよ?えぇ?答えられんのかコラ!さっきから謝ればいいと思ってないか?世の中そんな甘くないんだよ大体なんだ貴様ら、書類からしてなんなんだアホなのかおい!
お前はラサールだったなえぇ?鬼畜米国はどんな文化だか知らんがここは日本なんだよに・ほ・ん!神国ジャパンだよ!わかるか日本語!」
うぜぇ。
「神国っ…」
隣で星川がその単語にウケてやがるし。
やめてくれ今はクソめんどいからマジやめてくれという視線を流星が送るも彼は気にしない。タチが悪いことこの上ない。
「あぁ!?何がおかしいんだてめぇ!
てめぇは確かテロリストのガキだよな?やっぱあそこの出は非常識が多くて困るんだよ!」
テロリスト?
「あ?なんだって?」
今までヘラヘラしていた星川の眉間に皺が寄った。あぁ、これはさっきパターンよりタチが悪いんじゃないか?
「もういっぺん言ってみろこのクソ公務員」
「なんだてめぇ!」
「まぁまぁ…」
余計に厄介。
仕方なく今にも食って掛かろうとする星川を流星が制し、間に入ろうとした瞬間だった。
教官が頭に血を登らせ、その場にあった飲みかけのブラックコーヒーのカップを手に取り、ぶっかけた。
運悪く流星の腕にそれが掛かる。次の瞬間、流星の頭の奥が、切れた。
気付いたら一発その手で教官の顔をぶん殴っていた。当たりどころが悪く、教官は少しよろけて尻餅をつく。
「て、てめっ、」
「パワハラだクソ野郎。今から公安に掛け合ってやる言い訳すんならDNA鑑定かけて行政機関に持ってって弁護士呼んで戦ってやるよ」
「え?なにそれ」
「懲戒免職もんだな。証拠はこれだけだ奥さんと子供に遺書かいとけよクソが。あーあっちいな80°くらいあんじゃねぇか火傷だ、火傷全治二週間の医療代出せよおらぁ!
大体なぁ、人のこと鬼畜米国だのテロリストだの言ってるがてめぇも今から傷害罪で逮捕だこの野郎。なんだコーヒーって。ふざけんなよ鼻毛野郎。てか身だしなみくらい整えろ良い歳こいてバカみてぇに鼻毛伸ばして香水付けやがってラリッちまうわてめぇシンナー中毒かこの!」
いちゃもんじみた捲し立てで流星はそのデスクをガンっと蹴りあげる。
「チンピラかよ…」
思わず星川、呆れてしまった。
「お前もなぁ、血気盛んなのはいいがマジさっきからこっち困ってんだよホントKYだよなんなんだよ俺むちゃくちゃ困ってるかんな!大体巻き込まれてるにしてもいちいちフラグ回収してんじゃねぇよお人好しか!暇なのか!?それとも喧嘩がしたいのか?
よそでやれ!人を巻き込むなぁぁ!」
「はぁ!?いや待ていや待てお前が言えた口かよそれ!逆ギレしてんじゃねぇよ女子かよ!」
「あ?てめぇよく言えたな!俺さっきから先輩追い払ったりこのパワハラ教官ぶん殴ったりよくよく考えたらてめぇより良い仕事してねぇか?」
「逆にタチ悪っ。
は?何それ本気で言ってんの?頭の中どんだけ青春ドラマなんだよ頼んでねぇし!んなのはブラウン管の向こう側でテキトーな若い兄ちゃんがやりゃぁいいんだよ!迷惑だな!」
「可愛くなっ。何お前っ。え、小憎らしいとはこの事だな、絵に書いたような生意気年下。なんなの。ツンデレどころか全然可愛くねぇ」
「悪かったな、あんたのその仏頂面の方が|大分《だいぶ》キとるわ、これでも可愛い可愛い言われるんだよこの童貞野郎!」
「あ、言いやがったな。だから違ぇっつってんだよ引きこもり野郎!あー、Step outside!」
「あー意味がわっかりーませーん。日本語でどーぞー」
「でしょうねぇ、俺もとっさに日本語訳が出てきませーん。ググってくださいバーカ」
「頭悪いの?実は」
「えぇい、やめんか貴様ら!」
二人が白熱してきた頃に痛みを忘れて教官一声。
しかし、「うっせぇ!」と二人に口撃され「うっ、」とどもる。
最早似た者同士。これは終息なんて無理だと悟り、教官はこっそり教官室からいなくなる。誰かを呼んでこよう。
それを見てお互いに一息吐いた。顔を見合わせ、「巻いたな」と流星が言う。
「意外にうまく行くもんだな」
「取り敢えず帰ろ。あー疲れた」
そして一度二人で教室に荷物を取りに戻る。
「しかしあんたあんなによくもまぁ、悪口がぽんぽん出てくるね感心したわ。人を憎んで生きてきたとしか思えないよ」
「ラサールで学んだんだよ。外人はハンパねぇから。あとは保護者が口悪いんだよ」
「へぇ、可哀想」
「お前もなかなかだよ天才的だったよ。思い出したらあぁ、お前腹立つな。うん、お前こそ人を恨みながら生きてきてね?」
「そうかもねー。俺も思い出したら腹立ってきた。バカって言った方がバカだって教わんなかった?ラサールで」
「蒸し返すなよ。頭悪いってそのあとお前返してんだろ。あと俺童貞じゃねぇし」
「そここだわるな。苦い経験でもあんのか?引きこもりが聞いてやるよ」
「うるせぇな、根に持ってんじゃねぇよねちっこいな」
「あんたに言われたくないよね」
今日の帰りの印象は、お互いがお互い、
こいつうぜぇ、だった。
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