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 樹実に連れて来られたのは小料理屋の様なところだった。

 臆することなく、樹実は店主に軽く挨拶をする。「いらっしゃってますよ」と、初老の小柄な店員が奥を指した。
 会釈をして一番奥の座敷席に向かう。

 暖簾を分けて見えた顔に思わず、「お、え?」と、流星は混乱を表す。

 星川と雨が向かい合わせで座っていた。
 気付いた星川も、「あ、え?」と、流星と全く同じ反応。

 雨は久しぶりに見ても、動じることなくやはり紳士的な笑顔だった。

「よっ、お待たせ」
「お待ちしておりました。
 お久しぶりですね、流星くん」
「え、はい、お久しぶりです…」
「あははー、ビックリしてますね。
 僕実はあっさり出てきちゃったんですよ」

 なんて軽く言ってるから。

「いや、それもそうなんだけど、は、え?お前なんでいんの?」
「いや、それ俺も聞こうと思ってたってかあんたらとあんたら何?知り合い?え?何それパニック」
「え?樹実、彼らなんか…」
「あー、まぁ座んなよ流星」

 面倒臭そうに樹実に言われ、流星は取り敢えず星川の隣に座る。

 店員にテキトーにビールを3杯と烏龍茶を頼んで一息。樹実は星川と流星の視線を浴びている。

 だがそれすら気にもせずゆったりとタバコに火をつけ、それを見て雨もソフトパックを取り出して口を炙ってパッケージを開けた。

「今時あんまりいないよね、その開け方」
「え?これあなたがやってたんですよ」

 確かに樹実はよくやっている。珍しいのか、それって。

「まぁやるけどさ」
「これだと向こう側が開いちゃうことがなくて良いんですよねー」

 あぁ、なるほどなと流星が一人感心しているなか、「いやタバコ議論よりもね」と、星川が切り出した。

「なんでこの人いるの?」
「あぁ、そうだった」

 そのタイミングでビールと烏龍茶が来てしまい、まずは乾杯。

「いやぁ流星くん、今日は潤がお世話になったようで」

 雨にそう言われ、流星には一瞬誰だかわからなかったが、「あ、あぁ、いやぁ…」とどもってしまう。さっきまでそれで樹実と議論をしていたから。
 というか何故雨は知っている。そもそもこの二人はどういった関係なんだ。

「まぁ潤のことは雨がきっちり躾をしてくれー。マジお前らの教官怒ってたよ」
「やっぱりか!あんたのとこに連絡行ったんだ!」
「当たり前だろ。一応保護者ってことになってんだから?」

なんだなんだ。全然わからん。

「俺だけなんか全然わかってないんだけど」
「まぁ…。
 雨じゃ、名義だとかそーゆーのが面倒見れないから俺がこいつの面倒を見てるってとこかな」
「あぁ…。え?じゃぁ熱海さんとこいつはなんなの?」
「あ、それ俺もわかんないわ。なんなの?恋人?」

何故そうなる。

「うーん。確かに潤には家のことを任せてますけどなんというか…」
「飼い主と猫」
「主従関係なの?」

 樹実は黙り込んだ。
 雨と潤は「あぁ自覚あったんだ。ぴったり」と笑い合っているが、今の会話の流れでは本気で誤解を招く発言だったのではないかと思えてならない。

てか、流星ちょっと純粋すぎないか。童貞臭いぞ察しろよ。

「樹実、頭の中を二文字でどうぞ」
「卑猥か淫乱」
「それ間違ってますからね」
「え、じゃぁなんなの?」
「うーん、あなたと流星くんみたいなもんでしょう」
「そんなに卑猥じゃない」
「だから、違いますから」

 話が通じない。最早樹実は疑惑から抜けられずにいる。

「あぁ、ウチは完璧家政婦だよ俺が。樹実は掃除も洗濯も出来ねぇし。辛うじて魚が焼ける」
「まぁ入れるだけですからね。ウチは逆パターンですね」
「うわ、お前ヒモじゃねぇか」
「うるせぇな。やるよ?料理が出来ないだけだよ」
「最近洗濯は覚えましたね」
「うん」
「言うてお前も出来たっけ?」
「出来ませんけど?」
「どうしてんの?」
「二人で頑張って特訓中」
「揺るぎないな…」

 ますます疑惑の目を向ける樹実と、気にしない二人。

「これからもウチの潤をよろしく」
「えぇ…俺嫌だよ雨さん」
「なんで?」
「だってこいつ変なやつだもん」
「それはお前も一緒だと思うぞ潤。お前ら結構名コンビじゃねぇかな」
「俺も嫌だよこんなやつ。熱海さんに申し訳ないけど」
「まぁまぁ。意外に良いヤツですから。意外に」
「なんだよ!
 あ、てか思い出した。樹実さん、俺あんたに返すもんがあるんだけど…なんだよ、来るなら持ってくればよかった」
「これですか?」

 雨が懐からリボルバー拳銃を取り出した。
 「おいおい!出すなよバカ!」と、樹実がそれを嗜める。

「物騒だろうが!ここは日本だぞ!」
「その物騒な物を置いてったのはあなたでしょ?まぁ使いませんでしたけど。それどころか…潤は使い方を知りませんから」

なるほど。

「おかげで護身も自殺も必要なかった。第一…弾が入ってなかった」

 あの時。
 敢えて、弾を抜いておいた。それが潤にとって救いであり、地獄でもあった。

「仕方がないから雨さんが帰って来た後、二人でロシアンルーレットやったよ」
「なんだそりゃ…」
「案外…」

 その後は続けない。
 ただ、前に会ったときよりもなんとなく潤の雰囲気は、明るくなったような気がする。

「…それはやるよ」
「え、だから」
「なら、雨に教われば良い。雨はリボルバー派だから」
「じゃぁ、僕が持ってましょう。あなたが欲しいと言う日まで」
「…なによそれ」

だがこれで。

「互いに易々死ねなくなったな」
「…樹実」
「潤、雨のことは任せた。雨には潤を任せた」

 そんな会話を聞いた流星はふと、笑ってしまった。

「あんたらしいな。嫌なやつだよ樹実。
 |雨さん《・・・》、俺もあんたに返すもんがあったんだが…俺もまた会えるってわかってたら持ってきたのにな」
「これか?」

 今度は樹実が鞄からCDを三枚出した。

「あぁ、それ」
「これこのまま俺に貸して」
「どうぞ」

 アルバムのタイトルがまさしく、今の雨らしい。先伸ばしされた無罪へ。

 この頃の彼らはまだ、装弾された銃そのもので、弾詰《ジャム》る前だった。

 全てが、ノスタルジックに変わる、前の頃。

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