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伊緒の、震える手、怯えきった目。
少しの躊躇で銃弾が、伊緒と俺の間に撃ち込まれた。
「…その銃は、」
「…やめろ」
「それは樹実《いつみ》が持っていた銃だね」
「黙れ」
ブレた。肩を擦っただけだった。夢中になって2、3発撃っても全て当たらなかった。
詰まって我に返る。畜生。こんな時に弾詰《ジャム》りやがって。
だが詰まりを直すほど、精神的に余裕もないから銃を持ち変える。
あいつを殺した銃に。
それを見て箕原は狂ったように笑った。
「お前気に入ったよ。流石だね狂犬」
「あぁ…本気でうぜぇなサイコパス」
最早ヤツ以外は俺の目に入らない。声も聞こえない。いま俺は物凄くこいつを殺したい。
遠くで声がする気がする。構わない。この射程距離なら間違いなくこいつの頭は、残らない。
「死ね、クソが」
引き金を引こうとした時だった。
箕原が視界からぐらついた。見ると、右肩辺りを抑えていて手からは鮮血が滴っていた。
状況が呑み込めない。
「お前…!」
箕原の視線はすぐ下の伊緒で。どうやら撃ったらしい、銃口からは煙が出ていて、ゆっくりとした動作でその銃を床にやり、「流星さん!」と、震える声で叫んだ。
我に返った。
再び銃をしっかりと構え直す。
「全員、いるか!?」
「とっくにいるよ!」
後方から政宗の声がして安心感を得た。
「…マトリは御子貝を捕らえろ!黒田くんは援護!
伊緒、アタッシュケース奪ってこっち来い!」
そのまま伊緒は箕原に体当たりしてアタッシュケースを奪う。政宗と早坂の銃声がする。
漸く俺は銃を降ろした。そのまま無線を入れ、現場保存と突入を命じた。
アタッシュケースを奪ってきた伊緒は、よほど怖かったのか震えたまま抱きついてきた。
「伊緒…」
「すみません…すみません」
「わかった、わかったから」
ドタバタとしたまま結局現物の確保と江島、御子貝、そして入口にいたFBI擬きを逮捕。
箕原と眼鏡と官房長の運転手にはいつの間にか逮捕劇の中で、雲の渦の如く逃げられてしまった。
「やられたな」
残された血痕で逃げ足を追おうとしたがそれも途中で途切れていた。
「マジ幽霊みたいなヤツだな、あの野郎…」
潤にも思うところはあるようだ。こちらから話さずとも俺たちが潜入している間になんとなくは正体を掴んだらしい。怨めしそうに言う潤の目に熱を感じた。
「次はないな、流星」
「…あぁ、そうだな」
「これは反省会だね」
だが口調とは裏腹に、潤の目は笑っていなかった。
逮捕した三人がパトカーに乗せられるのを見つめる目には悔しさが滲み出ているようだった。
「壽美田さん」
ふと、パトカーに乗る前、黒田に声を掛けられた。
「ん?」
「…何があったかは知りません。
ですが、貴方の正義は今は…少なくとも今日は、かっこよかったです。
では、これにて。また会える日を」
そう言って、黒田は振り返りもせずに最後にパトカーへ乗り、去っていった。
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