18
知徳と雪が、真っ直ぐに流星たちを連れてきた。
「樹実、」
ステンドグラスの光が当たる。困惑を張り付けた表情の一行に樹実は笑顔で、「よう、遅ぇな」と、銃を持っていない左手を振った。
血塗れの彼はもはや狂気に満ち、底知れぬ、殺意を感じる。
「あ…雨さん…」
教壇に座る樹実と、凭れ掛かるように胸から血を流した雨の姿が見える。
「なんで…、」
「さぁ、なんでかなぁ…」
「樹実…どういうことだよ」
「どういうこと?大方聞いてきたんだろ?
俺がエレボスを作り上げた、それだけさ」
「だから、どうして」
「愚問だな。そんな話をしに来たのかい?だったらもういい」
「樹実、俺たちはお前と話をしにきたんだ。
俺はもういい。せめてこいつらにくらい真実を、お前の真実くらい、話してやれよ」
「俺の真実?なにそれ、全然わかんねぇな」
「高田から聞いたよ。
銀河、二人をよろしく」
「政宗、行くのか」
「あぁたまにはな。かっこつけてくる」
政宗が先に行く。それを制するように雪が憚るから。
「雪、俺は女には手を出したくないんだ」
「知ってますよ、現場監督官」
「知徳、頼んだ。
俺はな、そーゆーの好きじゃねぇんだ。こいつが退かねぇならてめぇを撃ち殺す」
政宗の静かな気迫に雪は知徳と顔を見合わせ、知徳は首を横に振る。
退いた。
「悪いな。あいつぁ戦友なんだ」
その政宗の背中が大きく見えた。少しの間、託すしかない。
「樹実」
「何だよパパ」
「お前さぁ…」
雨の前まで来て政宗は死体を見下ろした。
何がこの男を突き動かしたのか。
「こいつ、少しだったが良い奴だったよ。 潤の、…親だってな」
「そうだよ、俺が殺した」
「高田創太は、所謂お前の親なんだってな」
「あぁまぁな。そうなるな」
「なぁ樹実」
「なんだよ」
「お前は間違ってないと思いたいんだ」
銃を向けた。
こいつが銃を、パファイファーツェリスカなんていうどこから手に入れたかわからない、支給品以外を手にするときは、わりと本気の時だ。
「だが俺は、どうして何も知らなかった?」
「そうだな、悪かったよ」
「悪かったよ?ふざけんなてめぇ…。
お前、こいつは、熱海雨はお前の戦友じゃなかったのか。俺はお前の部下じゃなかったのか。流星はお前の…お前の大切な弟分じゃないのか潤は、お前が熱海さんから託された大切な親戚じゃねぇのか」
「あぁ、そうなんだろうな」
「樹実っ!」
「政宗、俺はお前がわりと好きだ。優しいなお前は」
ふと樹実が政宗の向こう側を見た。
瞬間、銃弾が政宗の真横を掠め、左の脇腹が痛んだ。
「…っ!樹実っ!」
「話しても無駄だな。俺には俺の終焉がある。お前じゃ優しすぎるんだよ政宗。お前じゃ俺を殺せない。ルーク、何故外す。こんなナマ言ってる奴、当てちまえよ」
「樹実はソレデいいの?」
「うるせぇなみんなして。
お前らなぁ、」
立ち上がって脇腹を押さえる政宗に樹実はデザートイーグルを向けた。その目に慈悲はない。
ハデス、スナイパーの目だった。
「生温いこと言ってっと全員殺しちゃうよ?早く掛かってこいよ。こっちはヤニ切れでイライラしてんだ。おら早く来いよてめぇら」
「それがあんたの…望みか」
流星が静かに呟いた。多分樹実には届いてはいない。
知徳が「流星さん?」と言った次の瞬間だった。
知徳が拳銃を持っていた手は、流星に掴まれ思わず誤射する。足元に撃ち込まれた銃痕が生々しい。
「そこを退いてくれ」
「…それは出来ません」
「あっそう…」
流星はそのまま知徳の、掴んだ腕を引っ張り、体勢を崩した知徳の額にグロックの銃口をめり込ませるように押し付けた。
「退けと言っている」
「流星さん、貴方は」
「うるさい」
「流星、落ちつ…」
撃った。
力なくなった死体を蹴り飛ばし、唖然とする雪を一睨みして先に進もうとするが、異変に気付いたルークが向かう。
だが、所謂瞬殺だった。流星の前に立つ事なく一発、ルークの肺の横あたりに弾丸が貫通した。
踞るルークを見下ろし、背を踏みつける。
「…りゅ、せ…」
「Get out of my way.(退け)」
「Very well !!(上等だ!)」
立ち上がってルークが銃を構えるより流星の一撃の方が速かった。脳天を一撃で射抜き、ルークは倒れた。
ルークのその背負っていたサブマシンガンを奪う。その流星の動作があまりにも鮮やかで、淡々としていた。
「やめろ、流星!」
銀河が叫び、唖然としていた潤も我に返った。
ただ、振り返った流星の目には最早、狂気しかない。
「ヤバい…」ただ本能が言葉になった。
「流星さん、あんた…!」
だが雪が半狂乱になり銃を流星に向けてしまった。
「雪ちゃん、だ」
ダメ、という前に血を出して倒れた。
なるほどそう言う仕組みだ。銃を向けたらアウトなんだ。
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