19
「流星!」
潤が叫ぶと、一瞬驚いた顔をして流星は銃を下げた。
「…潤?」
しかし…。
外に追い出されていた信者の数人が銃声を聞き付け、「終わったか公安共っ!」と言いながら銃を構えて入ってきてしまう。
そこからはもう、殺戮でしかなかった。
銀河も潤もそこからは身を守るのに必死で。
だが案外自分達はある意味楽だった。
そこからの流星は最早、人ではないくらいの殺傷能力を駆使して向かってくる全員を殴り、撃ち、殺していった。
それを見ていた樹実は、異変に再び銃を下ろした。
救えなかった、ただ、そういう虚無感が胸を占めていく。
「流星っ…」
政宗が苦しそうに応戦しようとする。それに対し、「やめろ政宗」と、樹実は一声掛ける。
「…はぁ?」
「俺みたいになっちまったな」
「樹実…」
「悪いな政宗。これから俺はお前にまた、重荷を背負わすことしか出来ない」
「何言ってんだ、樹実」
「下がってろ、政宗。俺の最期の償いだ」
教壇から降りて銃を一発、上に向けて撃った。
「流星」
あの日のことを思い出す。曇りのない目。今もそれは変わらない。
樹実に対してはどこか、流星は一瞬の間が生まれるらしい。それは隙だ。
その隙を狙い、樹実は流星の左側を撃つ。
こいつは俺と違って左に癖がある。多分、俺が右が弱いから、気付かないうちに左に片寄って教えてしまったのだろう。
「流星、タバコ。切れた」
左肩を押さえながらも、どうやら流星は正気に戻ったらしい。
流星がポケットから新しい箱を出し、右手で投げる。それを受け取り、樹実がふと笑う。
「バカ、火ぃ貸せ」
力なく流星はジッポを後追いで投げてきた。全然届かなかった。
樹実は拾いに前まで歩く。その場に座り込んで口を炙って箱を叩き、一本取り出した。
咥えてタバコに火をつけ、美味そうに吸っている。
「あぁ、うめぇな」
「樹実、」
左腕を押さえる流星。最後くらい正気で話したい。
「どうして、あんた…」
「お前も野暮だな」
「どうして俺だったんだ、樹実、」
そう聞かれたら、言葉に詰まった。だけど出てきた答えはひとつだった。
「羨ましかったんだよ、お前がさ」
「何よ、それ…」
「夜が羨ましいって言った、お前が」
吐き出す煙が、キラキラ光る。
「多分、理由なんてそんなもんなんだよ、流星」
「だったら、なんでこんなことしてんだよ…樹実、」
「そうさなぁ…。
全部捨てた気でいたんだ俺は。甘かったな。人の情とかそんなん、俺にはどうでもよかったはずだったんだ」
「もっと…だって、」
「違う道かぁ。それもあったかなぁ。俺じゃなかったらきっとあったんだよ、流星」
悲しそうに笑いながら樹実は、デザートイーグルを力なく返してきた。
ジッポをあけ弾を取りだし、雨が使っていたレッドホークの銃弾を回し流星に向け、ハンマーを引いた。
「ロシアンルーレットだ」
「樹実」
「そいつにはたくさん入ってるし|弾詰《ジャム》らない。間違いなくお前が有利だ」
「説明になってねえよ、樹実、」
「流星、」
その声の優しさが。
助けを呼ぶようにしか聞こえなくて、返事が出来ない。
「一人を殺したら最後なんだよ、流星」
その目が、声が。
「樹実…?」
あの時の。
自分を拾ったときの目となんら変わりがないほどに寂しげで、そして何よりまず、強さがある擦れ方をしていた。
なのにどうしてそんなに消え入りそうな声で言うのか。優しさを、孕んでいるのか。
「…わかったよ」
樹実は、静かに目を閉じた。
「引いて」
お互い引き返せない。
ハンマーはもう、引いてしまったのだから。
「そう、そして、」
二人とも撃った。だがやはり、倒れたのは樹実の方だった。
登る煙とステンドグラスと火薬の臭いが。
「う、ふぁっ…っ!」
ただただ、朝は、昼間はやはり嫌いだと、そう思うことしか出来なくて。
「流星、流星!」
蟀谷に当てた銃口はただただ熱かった。それだけは覚えていて。
銀河や、政宗に止められて。
最後に潤に殺されかけるくらいぶん殴られて。
ただ、樹実や雨の死に顔はどうにも。
綺麗なまでに邪念がないなぁ、それだけは確かに思ったのだった。
- 158 -
*前次#
ページ: