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 次の日、朝イチで厚労省トップの入間義行《いるまよしゆき》に挨拶に行った。

 凄く素っ気なく、「あぁ、高田さんとこのね。よろしく。有楽町《ゆうらくちょう》ね」と面倒そうに言われた。

 いや知ってるけどさ。
 タヌキ親父には体裁で頭を下げてそれから有楽町にある警察署に向かった。

 『特殊捜査本部《とくしゅそうさほんぶ》』という札が下げられた部屋に入ってみると、警察署とは思えないほど見事に何もない。あったのはデスクと電話だけ。

 これじゃあまるでオレオレ詐欺の事務所だろう。
 一人で苦笑した。

 まぁきっと、初日だし、今日一日は引っ越しで終わるんだろう。

 しばらくしてから扉が開く。「流星さん!」と言う声で振り返る。

 伊緒だ。
 その後ろでは政宗が、涼しい顔でタバコを吸っていた。

 実は昨日、局長の命を受けてすぐに、俺は政宗に連絡を取った。役職的にも信頼度的にも、この男に任せるのがいいと思ったからだ。

「よう」
「流星さん…」
「残念ながらお前は今日から俺の部下だ」
「…なんと申し上げてよいのやら」
「別に。俺はお前の情報と腕が欲しいだけだ」

 そう言うと政宗が笑った。

「家はしばらくは俺の家かな」
「え…?」

 この様子だと、今朝退院したのだろうか。

「うわ、お前大変だな。
政宗は男の独り暮らしだから家汚ぇぞ」
「昨日掃除したわ!
 てかよく言うな!お前よく泊まりに来てたじゃねぇか!」
「だから言ってるんですよ」
「確かにでも大変だな。職場では鬼みてぇな上司にコキ使われて、家では家政婦だ」
「あんたが言うと途端になんか卑猥なんですけど」
「あはは…」

 そんな日常的な憎まれ口大会を開催していたら突然伊緒は笑い、でも眼には涙が浮かんでいて。
 そのうちボロボロ泣き出したから。

「えっ」
「ありゃ」
「えっ、嘘っ。悪い、そんなに嫌だったか?どうしよう政宗」
「知るかよ…。ごめん俺家事出来るように…」
「ち、違うんです!
い、生きててよかったなぁって思って…!」
「え?」

 なんだそりゃ。

「まさか、だって…こんなに良くなるなんて…!」

 まったく…。

「あーもー!ビビるからやめろよ!俺泣かれるの一番だめなんだよ!」
「だって、だって…!」
「仕方ねぇな…!」

 取り敢えず抱き締める。人の温もりを感じさせる。
 こいつの辛さは俺にはわからん。どんな生き方をしたかもまだわからん。だからちょっと嘘臭いけど。

「…辛かったな」

 それしか言えない。

「…うん、多分ん…」
「はいはい。もうちょっとでみんな出勤してくるから!泣き止ん…」
「おはよー」

 来てしまった。

「…なにこれ」

 一番嫌なやつが。

「うわっ…」

 政宗はそれを見て笑いを堪えながら、「感動劇…っ」とか言ってデスクに座った。

「俺タイミング悪い?てかあれ?そのガキどうした?…お前ら何泣かしてんだよクズ上司」

 顔をしかめる潤。やべぇ。凄くその眉間に拳銃ぶっぱなしてやりてぇ。

 漸く伊緒が離れて顔を上げ、「違うんです!」とか言う。

「うわぁ、ぶっさいくだねクソガキ」
「…おはようございます潤さん。
今日からよろしくお願いいたします」
「あマジ?よろしくブス。てかこの部屋酷くねぇ?」

 最低だ。こいつ最低だ。こんなやつがこの部で、現場を引っ張る役割になるなんて。

 何事もなく二人は席につく。

 それからちらほらとみんな出勤してきた。皆入ってきてすぐは、「え?」とか言って驚き、人によっては一度出て札を確認しに行く者までいた。

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