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「あれもさぁ」

 オムライスを食べ終え、潤は笑った。

「一体いつわかったの?」

 昔話に少し花を咲かせた。今はこれだけ穏やかな日々を送っているのだから、懐かしい話だ。

「それは大人の秘密ですがまぁ…ぶっちゃけ当てずっぽうな部分もありましたよ。実際彼ら、首にならなかったのはそーゆーことです」
「うわぁ…」

 涼しい顔をしてタバコを吸い始めた雨を見て、また笑ってしまう。確かに、当時少し違和感はあった。

「なんでそんなに熱くなったの?」
「なんででしょうね。まぁ元々あの人たちはウマが合わなかったし。でも潤はおかげで助かったでしょ?」
「まぁ…そう、かなぁ」

 ぶっちゃけ言ってしまえばどうでもよかった、あの頃の自分は自分なんて。どこにいこうが何をしようが。
 雨の忠告すらピンと来なかったしなにより、雨のことをそこまで信頼してついていったのかは疑問だ。

 だが結果、よかったのだ。

「…正直どうでもよかったんでしょ」
「…バレてる」
「そんな顔してましたから、当時は。でも僕はそんなガキを構うくらいには暇だったんですよ、三佐なんて雑魚キャラは。
 僕は今の君といれて幸せなんです。だからよかった。あの時あのまま放っておいたら僕はきっと、腐ってた」
「…そこまで褒める?」
「褒めてませんよ。
潤はどうですか、いまは」
「うん…」

 改めて言うのはなんだか照れる。

「ありがとう」
「…照れますね。こちらこそありがとう」

 感情を圧し殺す毎日の最中、自分はとても楽に窮屈だった。そして擦り切れていた。

「俺ずっとね、なんか…楽ばっかしてたな。流されて気付いたら親戚なのかわかんねぇ家に売られてずっと弄ばれてきて。でも言うじゃない?没落貴族って多分こんなもんだろって思ってて。だからもう仕方ないって。
 生きるために必要だったけど生きる意味なんてなかった」
「…改心しました?」
「それはまだわかんない。18だから」
「そうですね」

 結局わからないままだから、まだ楽は出来ないのだろう。

「じゃぁ潤」
「ん?」
「もしも僕が人でなくなったら、あなたはまず何をしてくれますか」
「うーん。難しいけど…。あんた訓練所ぶっ壊しても人だからなぁ。そんとき考えるだろうけどまぁ多分、俺も人の道は外れる」
「え?」
「俺そんな強くないし怠け者だから。道標はずっと変えないの」
「…そうですか」

 どうやら自分が道標らしい。ならば言おう。

「ごめんね潤」
「なんで謝るの」
「僕は…」

君の、ヒーローではないんだよ。

 その言葉は出ていかない。

「親友でいられますか」
「保護者でいてください」

 その偏屈さに笑ってしまった。

くだらない。
とても。
感性は行き場が自由である。

「そうですね」

 思い返してみればこれは、二人の中の唯一の約束であり束縛だった。

 思えばあの時。
 不和のリンゴは投げられた。トロイア戦争は然り気無く幕を開けていた。

 始まりはそんな、些細で単純な幕開けだった。感情は忠実で、情緒は誠実。歪んだ瞬間から全ては、膨らんで歪んでいってしまった。羽がむしられたペガサスのように。

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