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帝都大学の前は不自然に静まった風景。
どこか、耳鳴りに近い胸騒ぎがする。
「やけに人通りのねぇ大学だな」
同じことは元上司も思ったらしい。
「これだけの規模で、なんだ…?」
「大学スケジュールは今日、通常通りだよな?」
そう言われてみて政宗はふと、持参したアタッシュケースから資料を漁った。
「あっ、」
見つけてしまった。
「金曜日でしたっけ、今日」
「そうだが」
「…なるほど。
今日、医療大で大がかりな学会があんだ」
「はぁ!?」
「うーん、つまりまぁ、案外人口は少ないわけですな、にしても静…」
車体が上下に揺れるのと同時に。
激しい爆発音が響いた。
「なっ、」
大学、車の中から見上げれば、毒々しいまでに黒い爆煙が灰色の空に昇っていた。
「どーゆーことだ…?」
思わず政宗はそのまま勢いで車のドアを開けた。「おい、荒川、」と言う原田の声は耳に付かずに唖然と景色を見上げる。
しばらくして騒がしくなる大学。
逃げ惑う生徒やら、教諭やらが突っ切っていく門。これは、只事ではない。
頭の中で様々な構成を組み立て直し、合致したことがあった。
そうか、これは。
「原田さん」
「なんだ荒川っ、」
振り返り、告げる目付きは獣のように。
「フェイクだ」
「…は?」
「…お宅らの中にやはり、いたんだ内通者が。
しかしこれはこれで、緊急事態だ。
霞、愛蘭に告げろ。流星に伝言だと。『フェイクはこちらだ。内通者はおそらくマトリ内にいる。
こちらには警察庁、警視庁どちらでもいい。速やかに今いる人間の安全の確保を出来る人権を呼べ』と。
俺たちはそれまでこの場を誘導しなければならない」
「何言ってんだ、荒川」
「はいはーい、電話なんて伊緒ちゃんが今」
「えっ。…政宗さん」
なんと伊緒、密かに電話をしていた。そして言う。
「…早くも機捜隊がこちらに向かっているとのこと。変ですね。タイミング的に」
「機捜隊…!?」
あの。
口元黒子の優男が政宗の頭に浮かんだ。
しかし、まぁ。
「なら、捜査員も、大学連中も死ぬことはないな。
原田さん、あんた、悪いが|上条《かみじょう》と現場を沈めてくれませんか?
トクホンは爆弾の解明に行く」
「お前それで俺がいいと」
「いまは現場の大多数が優先だ。
大丈夫。こっちとらそれには慣れた部署だ。
伊緒、電話切れ。
通信は原田さんにしろ、愛蘭と伝えてくれ。
霞ちゃん、タラウス用意しろ。
死ぬ気で行くぞ。しかし言っとく。俺はさくっと終わしてあっちに行きたい。じゃなけりゃ奴らに会う頃は地獄だ。わかるな?」
溜め息を吐いて、若者二人が仕方なしに2番目車両から降りる。
「原田さん。
俺はただ、あんたらも死なれたら困る。部長がうるせぇからな。じゃ、健闘を」
祈る。これは取っておこう。
んな他人行儀を言わないことにしようと、決めたからだ。
原田の中では、車の中から見送る背中に少し、
あぁそうかあの頃よりもお前は遥かに。
執着を感じた。
それはおそらく信念に似ている。
アレを、あいつをそこまで突き動かしたのはあの若い部長なのか、それとも、昔の若い|兄《あん》ちゃんなのか。
いずれにせよ生気は籠ったようだ。闇雲にはなっているが。鈍器よりかは、刃物に近付いたその男の背中を見て、
「仕方ねぇな…。
上条、行くか」
最早それしか、出来ないのだ。
「部長?」
「悔しいが、俺を顎で使える部下はアイツだけだな。だが、俺なんかより遥かに優しいやつなんだよ」
手放して正解だった。
「…あの人、俺あんまりかぶってないんですが」
「そうか。まぁ、そうだな。
ほら、もたもたしてると」
政宗が向かった方とは逆側から爆発。それから外線が入る。恐らくはその、特本部の通信だろう。
「はい、厚労省麻薬取締部の原田です」
『はじめまして。機捜隊のヤマシタと申します』
…なに?
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