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『仕事のあとは、タバコがうまく感じるもんさ』
縁起でもなく思い出した。
あの男の人好きな笑みを。
疲れたように、いま自分が握っている、先端から煙が立つデザートイーグルをぶら下げるようにダルく持ってタバコを肺まで深く吸うあいつの背中を。
「ふんっ…」
今なら気持ちがわかる。
「どした流星」
苦しそうに、与えたタバコを寝転がって吸いながら潤は俺にそう言った。
思い出すのは、一言。
「なぁ潤」
「なんだよ」
ダルそうに答える相方はそれでも、出会った頃と変わらず純粋な目をしている。
「俺は間違ってるか」
その言葉には閉口していた。ただ、見つめてきては、「ふん、」と嘲笑う。
「どうかな。だとしたら…殺すしかねぇかもな」
切れ切れに言う潤は、それから苦しそうに「へっへっへ」と笑う。
追いかけてるのは、俺だけではない。
「流星さん、潤さん」
ふと、廊下の曲がり角から声が掛かり、瞬が現れた。
「…随分やられましたね。
それは、里中副部長ですか」
物怖じせずに真っ直ぐと瞬は俺たちの元へ歩いてきた。
「そうだ」
「さぁ、こいつになんか言ってやってくれ。俺は腹が痛い」
「大丈夫ですか潤さん」
「まぁね」
すぐ近くまで歩いてきて瞬は、まずしゃがんで潤に手を貸した。
「あんたが言えないなら言うしかないですね。
流星さん、諒斗はいま、人質及び捜査員の避難に尽力しています。
多分、そろそろ着いただろう霞と伊緒くんと共に」
「…そうか」
「残るは俺とお二人です。ここがフェイクなら俺はお二人に、これ以上のここでの捜査を許すわけにはいきません、部下として」
「瞬…」
潤は、瞬の肩を借りて漸く立ち上がる。
俺を見る瞬の目は、強かった。
「俺前に、政宗さんのところ…マトリに少しだけ預けられたことがあります。あなた方の先輩から学んだことは、『生きて帰ること』でした。そのせいで捜査を見送ったこともあります。
俺は彼に、新人時代、捜査を学びに行きました」
そうか。
そういえば政宗は、少しの間瞬を預かったと、ホテルテロの時に聞いた。
「我々の今回の任務は内密に、里中さんを救うことだった。しかし里中さんは敵方とグル。いわば共謀罪だ。
そして一つ報告です。
この件で、こちらで調査をしていて撤退し損ねたとされるマトリの|若林《わかばやし》さんが消えました」
なるほど。
「帝都か」
「その可能性は多いにありますね。副部長失踪の報告も彼だったようですが…。果たして」
「安易すぎるね、確かに」
「やはりそうですかね。
彼が全てを本筋の帝都に持ち逃げしていたとしても、どうでしょう…」
「わかった」
だからこそ。
「若林って、どんなやつ?」
「へ?」
潤ががふと瞬に問うが。
潤は至って飄々と笑っている。
「ほら、俺らなんだかんだ、マトリーズと部長にしか会ってないじゃん?」
「いや、そうですけど…」
「マトリーズはいま避難してるんだよね?」
「はい。」
「他の逃げ遅れたやつらはいて、若林だけいなかったんだぁ」
「…なにが、」
「つまり。
俺たち、それぞれ持ち場に直行したよね?若林を知っているのはマトリーズだけだ。いないってわかったのはいつ?誰?」
「…ん?」
「ただ諒斗もマトリは見知っているよね」
「…若林さんはどうやら最近入ったらしく、諒斗も、言われて気付いたようで」
「…ふうん」
潤はそれから考えるように俺を観た。
「流星、どうよ?」
「うーん…もう一人いたよな取り残されたやつ。そいつはなんだって?」
「特に、何も」
「…ああ、それって。
若林がここにいたの知ってんの、少なくとも確証があるのは原田さんだけだよな。つまり、部長だけ」
「…はぁ、確かに」
「そいつ、端からここにいて潜入したのかわかんねぇな」
漸く見えてきたらしい。瞬は、「そう言えば…」という。
「聞いたんですが…
若林さん、ここの捜査に入った理由のひとつが、ここの大学出身らしいんですよね」
「見えたな」
つまり。
「多分、帝都に逃げてるだろう。
俺的には何故こんなにあっさりこんなデカイ大学がテロられてるか理解が出来なかったがそういうことだ。
買収されたな、そいつも里中も」
「買収…」
「そうか…」
恐らくもう、こちらが欲しい案件は、ここでは何も出てこない。
「やられたな」
「さぁて、今どうなってるの?みんなは」
「早々に退散させて向こうに行きたいところですね」
「全員まず避難させなきゃねぇ、ぶちょー」
「正直…」
地下に、まるで降り注ぐような轟音。
これは所謂。
「爆破された?」
上。はっとした。
「全員無事か安否を確認…」
「諒斗の電波が途絶えたな…」
潤がケータイを見せてきた。
恐らく、改造ケータイの、GPS追跡だ。
すぐさま愛蘭に電話をしようかと思ったが、
「…潤、持ってる電波もの全部電源落とせ」
「何故?」
俺もケータイの電源を落とした。
「追跡されるのは面倒だ」
「…お前諒斗は」
「諒斗が無事なら、同じく電波を遮断した、つまり、何かがあった。
じゃなければ普通に今死んだかもしれない。さっきの場所までまずは行こう。どの道、あいつ一人はナンセンスだ」
「…1階で切れたな」
ケータイを見ながら言い、潤は素直に電波を遮断した。
「急ぐぞ」
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