6


 硝煙の名残を残す大学内。
 |人気《ひとけ》はなく。
 ここは最早戦場なんだと二人は身構えた。

「しかしアテはあるの、政宗」
「どうやらデータにない、研究室はどこかにあるようだ。
 さっきの動画を観る限りだと、わりと狭いところだな」
「さっきの動画?」
「お前観なかったか?愛蘭から一斉送信されたやつ」
「誰アイラ」
「…黒髪の女の子だよ。長髪で美人な」
「あ、あぁ!」
「…いい加減名前覚えてもいいぞユミル」
「なんで」
「なんでって」
「僕に名前なんて必要ないんだけど」
「…さいですか。しかしこれからウチに籍を置くなら」
「え?」
「なんだお前、ホントに人の話聞かねぇな。お前トクホンの正式メンバーだぞ」
「…そうだっけ」

 初めて聞いたような反応。
 いや、本当は然り気無く流星は伝えていたのだが。

「それは誰が言ったの?高田さん?」
「流星だよ。本気で引っ越し以外頭から抜けてるな」
「リュウが…」

 意外だった。

「僕はね政宗。
今まで特定のパートナーを持ったことがない。だからリュウがひとつ所にいるのは違和感があった。
 潤ちゃんだって、気付いたら大体消えている。しかしスナイパーはそういうものなんだと、アメリカで学んだ」
「ここは日本だ」
「そっか…」

 あのときの、イッセイの言葉が染みる。

『君は一度家族を持った方がいい』

なるほど。

「だからリュウは」

 今この場に自分を派遣したのか。

「でもわからない。だってショウには家族なんていない」
「だからだろ。
 話してる感じだとあいつは、山下を心配しているように感じた」
「リュウが?」
「そうだよ」
「どして、」
「んなの、お前らが一番わかるだろ」

 そうかな。
 一緒に戦ったリュウは、多分。

「わかんないなぁ…日本人難しい」

『止めてこい』
 これは何を意味するのか。

 銃声がした。
 恐らくは前方だ。
 2、3発。地響きに近い轟音のような銃声。オートマチックではなかなかない、だが、流星のデザートイーグル、つまりはマグナムであれば可能だが。

「ショウだ」
「…音でわかんの」
「まあネ。んじゃ一発」

 ユミルは肩に下げていたレミントンを構えた。
 「は?」と言う政宗を無視してユミルはあてもなく、ただ真っ直ぐに威嚇射撃をした。

「えっ、なに、それ」
「大丈夫撃ってない。ショウのコンバットは左から聞こえた」

心底怖ぇな、お前らの喧嘩とやらは。

「なにそ」
「シッ、」

 最早日本語の擬音「しっ!」なのか英語の「sit」なのかは定かでないが。
 研究室から荒々しく、学者っぽい白衣を着た日本人の前髪を鷲掴みにしてドアからそいつを蹴飛ばして出てきたのは山下祥真だった。

 学者が壁にぶつかりくたびれた。
 猛獣のような目付きで睨んで祥真は二人にコンバットマグナムを向ける。
 心底、恐怖で政宗はにやけた。額に汗が滲む。

「マグナムか」
「ショウ…、」

 ユミルはレミントンを下げ、祥真に歩み寄る。
 人物特定をしたのか、祥真は目を細めてM19を下げ、「ユミルか」と呟くように問う。

「…山下さん、あんた、何してる」
「…あんた、まだいたの」

 ふと祥真がニヒルに笑うのも様になる。

 その瞬間にユミルは立ち止まり、下げたままレミントンの銃身を、撫でるように所在なく掴む。恐らくは癖だろう。

「何故ここにいる」
「…リュウに言われた」

 祥真は聞くや、「ふっ、」と笑った。

「あいつがか。随分保守的だな。
 あんたらが探している物の一つくらいはここにあるのかもしれないが、俺もこれには用がある」
「ショウはいま、何を」
「何って?事件解決だが」
「ふざけんな、そんなもん、お前に関係あるの?」

 構えようとユミルはレミントンを握る。
 だが祥真は飄々としていた。

「…リュウの命令だなんて、君の方がどうかしている。チームはとうに解散したじゃない」
「ショウ、」

 祥真はそれから、まさしく懐から何かを取りだし、ユミルに投げる。
 受け取ればそれは、ピンの抜かれていない手榴弾だった。

「ショウは、敵なの?リュウや俺や…」
「さあね。
 ただ俺は日本という、生まれ故郷に戻ってからは何も変わらない。全て、自分の目的のために生きている。誰の敵でもあり味方かもしれないね」
「ショウ…」
「そこの資料を漁ったら君はそれを引くだけの物がそこにはある。わかるかい?全ては、生き残る手段だよユミル。君は少々、日本を見すぎだ」
「何を言っているの、」
「荒川さん」

 後ろにいた政宗に祥真は声を掛ける。政宗は手元に拳銃を然り気無く用意して睨むように祥真を見つめた。

「…流星に、恋人と幸せに生きろとお伝えください」
「は?」

 答えず祥真は、反対、背を向けて壁の方へ歩いていく。

「ショウ、ねぇ!」
「ユミル」

 振り向かず言う。

「真実は、ひとつではないんだ。
 俺は君の戦友として語る。必ずしも信じているものが正しいなんて、幻想だと、君も流星も俺と見てきたと、思ったんだ」
「だから、」

 振り返り、一発、祥真はユミルへ射撃した。
 弾丸は掠り、頬を撫で血が流れた。しかし掠り傷だ。

止めてこい。

 ユミルは自然と祥真の元へ歩むが、もうひとつ、わざわざというように、祥真が手榴弾のピンを抜いたのがわかって立ち止まった。祥真はそれを、先ほど出てきた研究室の隣の部屋に投げ入れた。

「道がなければ、作るべきなんだ」

 爆音、爆風に包まれる。
 見たときには祥真は居なかった。恐らく、隣の部屋から脱出を試みたのだろう。

「…ユミル」
「…取り敢えず、その欲しい物とやらを、持ち帰ろう」

 歩き出す、爆風の余韻へ。
 その背に政宗は溜め息を殺した。
 大層な喧嘩なようだ。だが山下が敵だとは、まだ思えない。

「不埒だな」

 関係性は見た。
 行き違っている、これに尽きる。

- 241 -

*前次#


ページ: