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次に目が覚めたとき、夕方だった。
祥ちゃんが着替えて隣でぐっすりと寝ていた。珍しいこともあったもんだ。
そうだ夕飯。しかし起こすのも忍びないかな、と思えば、ふと苦しそうな表情をした祥ちゃんに。
仕方ないかなと思い、「祥ちゃん」と、起こすことにした。
「うぅ…」
寝ぼけて目を開け、俺を見れば少し挙動不審が見受けられた。珍しい。
どう対処しようかと無言で、頭撫でようかなと手を出せば震えていることに気付いて引っ込めようとしたが、がっとその手が掴まれてビビる。
あんた、どんな夢、見てんの?
顔に出たらしい。すぐに祥ちゃんは「あぁ、潤、」と、掠れた声で言った。
「うん、おはよう祥ちゃん」
「あぁ、ごめん」
すぐに俺の動揺の正体に気付き、掴んだ手をそろっと引いたので、試しに「なんの夢見たの?」と聞いてみた。
「あぁ、うん。
まぁ、昔の夢」
「そっか」
「あれ、何時?」
「んーっと、17時半くらいかな」
「あ、マジか」
「夕飯どうしよっかね」
「あー、昼飯多分残ってる。チキン南蛮。
眠くてさぁ、寝ちゃったんだ作ってから」
「すげぇ。
お疲れ様、ありがとう」
チキン南蛮。
そんなものは正直祥ちゃんで初めて知った。実家でも出されたことはないし、行く料理屋でも食ったことない。
宮崎の郷土料理らしい。なら、確かに家庭的だ。以前に作ってくれたときに祥ちゃんは、わりと手間が掛かるようで、覚えれば楽なんだと言っていた。
「あ、にやけてる潤」
「ん?うん、まぁ…」
「潤ってそういうの好きだよね」
ふと笑った祥ちゃん。漸くいつも通り、トゲは取れたらしい。
「ありがとう。祥ちゃん」
漸く半身を起こし、祥ちゃんはベットの台に置いたメガネを掛けた。帰ってきたときよりも疲れはなさそうで。
「血色よくなったね。激務だった?」
「うん。わりと。
祥ちゃんこそ、しばらく来なかったね」
「あぁ、うん」
取り敢えずは寝室からリビング(と言っても目の前、引き戸を開けてるから最早一部屋)に行き、「温めるから」とソファを促され、座った。
「やっぱさぁ、ニュースでやるだけあってさぁ、マジでキツかったよ」
「そうなんだ。確かに、機捜隊ってあったね」
「まったくさぁ、んなの課とか違くないか?ってちょっと監察と署長に文句言って帰ってきたわ。危うく死ぬかと思ったんだから」
「そんなに?」
「そうそう。
発表された?あれさ、同時多発テロでさぁ、どーやら厚労省だったかなぁ、あれが追ってたヤマだったらしくてさ」
「それは厄介そうだね」
「うん。最後は全部厚労省引き取り。ま、沈静化のみだったからまだいいけどさ」
なんも言えねぇ。ぶっちゃけ怖ぇ。冷や冷やする。
電子レンジの音がする。それと一緒にチキン南蛮のいい臭い。あぁ、やっぱこーゆーのいいわぁと気を紛らわす。
「そりゃぁ家に来れないねぇ」
「もー泊まり込み。鬼詰め。全くもっかいくらい立て籠ってやろうかって感じ」
「あかんからそれ!」
ふと、寝る前の会話を思い出す。
祥ちゃん、ホントに大丈夫なんだろうか。
「…無事に帰ってきてよかったね祥ちゃん」
「いやぁ、ぶっちゃけそれ俺のセリフ。
退院おめでとう、潤。早くてびびったわ」
「あははー、ありがとう。俺昔から丈夫なの」
「で、傷は」
チキン南蛮を二皿持ってテーブルに起き、再び米を盛りに行く祥ちゃん。
まぁ、そうだよねぇ。
「ん、多分大丈夫だよ」
「多分て」
「開きそうになったけどわりと大丈夫」
「いやいや…」
ご飯茶碗と箸を持って再び登場。自分はビール。ずるい。
「あ、ビールとかずるい」
「あ、マジで大丈夫そうだな。でもあげない。まだダメ」
「ちぇっ」
互いに「いただきます」と「乾杯」で夕飯スタート。
チキン南蛮、うまいんだよなぁ、マジ。てか卵って最強だと思う。
「ははー、やっぱ君美味そうに食うなぁ」
「いや美味い。不味かったら食べたらダメだって教わったし」
「そっか、そういや潤は坊っちゃんじゃん」
「そうでもない。まぁこれは美味しいけど、俺貧乏生活もあったからねぇ。食い物残すとか道徳に反する」
「さばの味噌煮嫌いじゃん」
「あれはダメだね。てかクセ強い魚はダメだね」
「そゆとこは一般的だね」
ぶっちゃけお手伝いさんがいたのと父親が料理にうるさいくらいは一般的だと思うけどな。てか、やっぱ貧乏生活もしたし。
「祥ちゃん家の家庭料理って何?」
「あー、サルサかな」
「えっ、マジ?」
「うん。あれあんま動物入ってねぇし安い食材ばっかだからね。
俺ん家そーゆーのあったんだよ」
「あ、そうなんだ」
「いまは別になんとも思わないけどさ」
なんだろ。
宗教的なやつかな。
「宗教的な?」
「そーそー。いやぁ家出して正解」
「昔から破天荒だったんだね」
すげぇ。なんか多難そう。
てかサルサとか料理屋で出てくるんじゃねぇのか。すげぇ。
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