6
眼鏡を外して拭いて眺める祥ちゃんは少し遠い目だった。
なんか、昔を思い出す光景だ。
また掛け直して目が合うと、なんか気まずい。話題を考える。
「祥ちゃん、一個いいかな」
「なに?」
「その眼鏡やっぱりダサいと思う」
「はっきり言うなぁ。いや家用だし」
「まぁそうですが。それ彼女の前で掛けない方がモテると思う」
「いまはいないからいいや」
「あそう…。いや今後さ」
「俺が彼女作ったら寂しいくせに」
「うーん…別に」
「薄情なやつ」
まぁ少しは寂しいけど。仕方ないよね。てか今までだってたまにしか家に来なかったくせに。
「そう言う潤にはいまは恋人いなそうだね」
「あそうだねぇ」
「まぁ別にいいけどね」
「薄情なやつ」
「まぁね」
けっけと笑った。
確かにそういえば最後の彼女と別れて何ヵ月だ?特本部出来る前じゃね?結構空いてるな。10ヶ月くらい?
「ここ10ヶ月なんか色々あったなぁ」
「恋人いなくなってから?」
「うん。最早恋人どころじゃないわ」
「忙しそうだよな」
そりゃぁもう。
二回テロられてるし入院するし。てか何度か死ぬんじゃね?レベルだし先輩も友人も死ぬし。部署引っ越しだし。あぁ。案外本当は平和じゃないなぁ。
けどまぁ。
「今が一番楽かも」
「あそう?」
「うん。だって」
死んだとしても一番しっくりくる時期だし。もうそんくらい開き直れば正直あんまなんか、執着もなくなる。
しかし何故か一番、もしかすると辛いのかも。わかんねぇや。ただ張り合いがある分、生きた心地がする。
「なぁんか生きた心地はする気がするからね」
「へぇ…」
ふと祥ちゃんは何かを考えるように宙を見た。そしてふと言う、「俺もそれ欲しいな」と。
「ん?」
「生きた心地ってやつ?まぁだからかなぁ…」
何がだろう。
しかし言葉を待ったが祥ちゃんはそれ以上を語らなかった。ただ、「さて、」と言って伸びをして立ち上がった。
「寝ようかなぁ。なんか寝れなそうだけど」
「俺もじゃぁ寝る」
「ん、そだな。不眠は地味に疲れるからな」
そして二人で寝室のベットに寝転ぶ。まだ寝るには早い。22時前だけど。
明日何時からなの?とか、いつも通りな会話をして。それに祥ちゃんは本を読みながら、「明日も休みだよ」と答えて。
「あそう、俺もまぁ、漸く休みだけどね」
「じゃゆっくり出来るね」
「うんホント。つか君そんなに傷ヤバいの?」
ふと本を閉じ傷口に触れてくる祥ちゃんの手は冷たい。少しびくっとすると「ん?」と疑問顔で。
「祥ちゃん手ぇ冷たいわ」
「あごめん。じゃ暖めるわついでに」
「やめてホッカイロじゃないから俺」
「てかなんか…」
そして笑った。
「どっかの結婚初夜のご令嬢みたいな反応を返されてお…おっかし!」
なんだしそれ。
しかしながらどんどんツボを押したらしい。徐々に笑いが深くなっていく。
「なんだよそれぇ、」
「いやだってぴくって!ぴくって!ちょっと罪悪感沸くやつじゃんそれ」
「沸いた?じゃぁ離せし」
「拗ねんなって。心配はしてんだよ!」
そりゃ拗ねますわ。温くなった手をはらい、うつ伏せになってやる。
「祥ちゃん変態だろ実は」
「ん?言われたことないけど?」
「じゃぁ俺が言うわ。変態!」
「はいはい…」
まだ笑ってる。
「まぁ丁度休暇でよかったね。てかさ、包帯だとか、いらないの?」
「多分」
「すごい治癒力だねホント」
ふと仰向けになり、祥ちゃんは何かを考えているようで。あれかなぁ、やっぱ警察庁のやつかな。
「祥ちゃん?」
「まぁ、ホントしつこいようだけど助かってよかったよね」
「ねぇてか…」
あの日何で俺が運ばれたって知ってたの?やっぱ、暁子の件?
だとしたら祥ちゃん、暁子と知り合いだったわけ?けど暁子は本当は…。
考えたらちょっと迷宮。しかし行き着くのはそれしか、実はない。
「…祥ちゃん。
面倒なことしてないよね?」
「面倒なこと?」
「ほら、まぁ、」
「長官暗殺?」
核心を突かれた。そんなにいきなり来るとは思ってなくて、「とか、まぁ」としか返せなかった。
「まぁ部下が裏で追ってたらしいな。仕方なくあの日長官に挨拶しに行ったんだけど面会を断られてね。そんときたまたま潤を見つけた」
「へ?」
「ほら、俺もわりと動揺してたからね。部下が追ってたやつが入院して部下が死んだなんて言ったらね、面会拒絶?じゃぁって名簿を見せてもらったんだよね」
「もらった…」
「正確には恐喝かもしれない」
「ちょっ、公安だよね祥ちゃん」
「キャリア上官命令かもしれないしな。
でもおかげで潤に行き着いた」
それはどう言った意味? てかあり?それ。
「たまたまあそこでよかったな潤。普通は入れないんだよ。SPだったんだね」
「あぁ、まぁ」
「てか潤も気付いてたのね、長官汚職。誰かに依頼されたの?」
「うん、まぁ」
ヤバいなちょっと恐い。なんか祥ちゃん、淡々としてるし。
「まぁ、悪いことは言わない。グレーゾーンだよ。危ないからやめときな。きっといま休みなのもさ」
「うん。先方が手を切ったね」
「やっぱりね。もうきっとわかんないでしょ」
「…怖いなぁ。あまりクライアントの話はしたくないんだけど」
「うん。俺もここでやめとく。ただまぁ、俺って過保護なんだよねぇ」
そう言いつつ、身体をこちらに向け、首筋当たりにひっそりと手を伸ばしてきて。
見つめる表情は微笑んでいるくせに、目だけは煌々と獣のような強さで。しかしどこか、慈悲深い。暁子を想うのかもしれない。
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