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「…あんた、プライバシー侵害って知ってるか」
「そりゃぁもう、ジャーナリストですから」
「これは行きすぎだろうが」

 写真の中の一枚。
 環の病院へ向かう俺の背中を取り上げた。

「そうですか?俺は事件の真実を追っていたらあんたがいた、これだけですけど」
「何が目的だ。誰から言われたんだお前」
「目的、まぁ一つは。
 鮫島さんから手を引くか、高値で俺と取り引きして抱き込み、俺はあんたに協力する。どうでしょ」
「信用に欠けるな。これを鮫島に流していないと言う保証はないからな」
「やだなぁ、そこは信頼でしょ」
「だったら答えはNOだな。俺は今お前をストーカーとして訴える、すぐそこには警官もいてマトリがある」
「仕方ないなぁ、じゃぁしかるべき処置で鮫島さんのところへ」
「出来るかな、はい、」

 腕を掴んだ。だがやつは抵抗をしなかった。
 不自然を感じつつも俺は即、潤に電話をした。

「あぁ潤。悪いが下まで降りてきてくれ。逮捕逮捕。ストーカー」
「あぁ、捕まっちゃったな」
「余裕だな、どうした」
「この写真見せたらあんた、違法捜査と、なんならテロ荷担と疑われても仕方ないのに」
「あそう。案外風当たりは慣れてるから痛くも痒くもない」
「そうですか、残念」

小蝿がうるさいとはこのことだな。
しかし何故こんなにも余裕か。甚だ不思議でならない。

「青葉さんも可哀想に。
 あ、俺因みにこんなときのために色々保険かけてるんですよ。あんたも気の毒だな」
「保険?」
「はい。まぁ言いませんけど。これからじっくり聞かれるし」

なんだ、
本気で気持ち悪いくらいの余裕だな。

 間もなくして潤が降りてきて「んだよ誰そいつ」とやる気がなさそうだが。

「FBIの星川潤さん。どうも初めまして、フリージャーナリストの|杉浦《すぎうら》です」

 閉口した。
 そして俺を見て潤は「どうもストーカーさん」と杉浦に言う。

「…面倒だからウチで取り調べろ。写真があるからストーカー法で余裕だ」
「あぁ、そう。気持ち悪っ」

 言いながら手錠をかけ、杉浦を引っ張っていく潤に、「慎重にな」とだけ告げる。
 再び車に向かうが、手が震えて鍵穴になかなか辿り着かなかった。
 開けて即座り深呼吸をし、冷や汗がどっと出た。

身元が割れるとか、これほど恐怖かと感じる。
ましてや環。
どうする、いま疑り深い事案の一つに割れてしまっていたとしたら。
なかなかな手練れを用意しやがったな鮫島。

 タバコを持つ手すら震えている。皮肉にも潤の一ミリだが、何故だか薄さが妙に落ち着いた。俺はとにかく、別のところへまずは行こう。

 車を走らせ、警視庁につく頃には落ち着いた。
 黙って捜査5課に行けば皆様怪訝な顔。しかし構わず、「お久しぶりです、壽美田です」と告げれば、

「はぁ、ははぁ…」

 やはりこの感じ。まぁ仕方がないと、|武宮《たけみや》さんを見つけて挨拶をする。
 含みのある表情だが無言で肩を叩かれ部署から離れれば、

「お久しぶりです…大変だったみたいで。
聞き及びましたが今日は何を?」

と、話を振ってくれた。いかにも早く退散して欲しそうで。

「はい、まぁ、會澤の調書です」
「未だに難航してますよ。どの件で?」
「あぁ、|浅井《あさい》と…|本郷《ほんごう》の」
「あの件ですか。本郷は仮釈放で自宅謹慎ですが、少し前に殺害されました」
「え、」
「あぁはい。あんた多分知りませんよね。浅井は全面的に犯行を認め8年。會澤は、
最早會澤サイドからバシバシ芋づる式で|龍ヶ崎《りゅうがさき》全域に及びまして。あいつの部下やらは何人か獄中自殺。まぁ、ヤクザにゃよくある話です。まだ捜査が全てに及んでいないと踏んでか、會澤も會澤で言うことをコロコロ変えましてね。いやそれから別件の検挙に繋がるから質が悪い」
「なるほど…」

仕方がねぇな。
あ、でもその前に。

「…向井くん、どうしました」
「向井?
 あ、あぁ。最初にポロっちまったんでな…わりとすぐ…」
「すぐ?」
「途中で患っちまって薬を処方してたんですが…どうにも、間違ってある日違う薬を出しちまったらしく」
「は、」

それって。

「…朝、警備員が見に行ったら、タオルで首括って」
「なんだっ、それ」

何が起きてる?

「…流石にこの関連の話にはあまりお答えが出来ない。最早監視官、国政の調査事項になったんで」

なるほど。

 つまり俺は大していま資料を得られないわけか。だから、全面的に末端の警察には開示OKが出て、「警視庁がヤバイ」だったわけか。
泳がされてやるしか、進めないわけか。

「…見せられる範囲で構いません。確かに、ヤクザ関連は慎重だ」
「おわかかりいただけました?貴方が残したモン」

 はっきり。
武宮さんは嫌悪を見せてきた。睨むように、強い瞳だった。

「…偉いんだかなんだか知りませんが、俺はあんたが嫌いだ壽美田さん」

あぁ。

「…すみません」

 謝るしかない。
 あの時暴れちまったのは確かに事実だ。他言いたいことは山程こちらもあるが、いまは黙ろう。

「…あんたが捕ってきた會澤の、デタラメしか言わねぇ調書でよければ」

 しれっと、それから部署に入っていくので、俺は武宮さんに着いていくことにした。

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