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 無言で奥の資料室につき、ファイルを3冊くらいが机に置かれた。
 ここに来て、ふと俺は聞いてみることにした。

「武宮さん」
「なんですか」
「あんた、しかるべき方法でだとか、言わないんですか」
「はぁ…まぁね。
 捜査の現状開示許可が出てますし、それ、あんた意味わかってないでしょうがほっとかれてるってことでしょ?
 我々はそれと違ってちゃんと組織にはそれなりの待遇ですから。
 だが會澤検挙に行けたのはあんたと協力した、これは事実だ。早い話がこちらもお手上げ、しかしあんたなら、無茶をする」
「なるほどね、じゃぁ、やっちゃっていいわけだ」
「悔しいもんですな、互いに」

 これはきっと。
 この人はこの人なりに、俺と仲良くしてはならない、それを汲んでくれてはいるのだろう。ならば返答は一言。

「情けないねぇ、互いに」

これしかないのだ。

 それは汲み取ってくれたらしい、漸く武宮さんは嫌味なく「ふっ、」と、自然に笑った。

「もう少しあんた、非人道的だと思ってたよ」
「いや、」

昔なら多分、変な意地でここは、張ってしまっただろう。
しかし一つ孤立すればこんなもんだ。良くも悪くも。

 それから資料に目を通し、咀嚼していき、
 息を止めて向井の獄中死の資料も見た。
 色々な発見があり、決意する。

「…向井は自殺となっていますが」
「ああ」
「それは會澤が入所してすぐですよね」
「そうだな」
「ふぅん…。
 つまりは薬、睡眠薬の誤飲による錯乱の末とありますが…」
「あぁ、表情がな」
「これ、司法解剖も恐らく胃の中の内容物やら何やら、と言ったところですかね」
「そうだが?」
「…にしちゃぁ、」

 タオルの圧迫痕が薄い。

「…で、なんです?」
「いやぁ、圧迫痕、薄いなと」
「やはりそう思いますか」

…つまり。

「一課はいれましたか?」
「怪しいと思ってな。だがどうも煮えきれず、なんせ途中で警視庁はこの件を検察官にいたくした。五十嵐も少し疑問は抱いていた」
「浅井に関してはいまは勾留、そして本郷が死に…これが先月。
 向井も先月で…」

先月といえば。

「国勢調査と監視官立ち入りは?」
「ちょうど先月ですね」

なるほど。
見えてきたぞ。

「…そいつ、ちょうど俺くらいの年齢の、山下というやつでは?」
「はぁ、あんたらのとこにも来ましたか」
「…ええ。結果引っ越しです。
會澤の調書、付き合って頂きませんか」
「はぁ、」
「ちょっとしたまじないです。
 俺昔ね、調書検挙率一位だったんですよ。妄言は吐いてみるべき、それを知りましたね、現場で」
「はぁ、妄言かぁ…」

 また武宮さんは笑い、

「すがるもんは宗教じみてるが、悪い話じゃないね」

了承らしい。

「じゃ、最後に俺からの確認です。
 この担当警備員は」
「あ、そう言えば…。
 事件以降、どうしたかな」
「例えば、いま働いてます?この人」
「あんたまさか…」
「まぁ妄言として」
「…人使い荒いなぁ。
 あ、言っときますけどあまり協力出来ませんからね」
「そりゃそうでしょ、飛ばされちゃいますからね」
「…ったく」

 資料室から武宮さんは顔を出し、

「|高崎《たかさき》、お前警部殿をお連れしろ。第一取調室。
 …あ?會澤だよ。うん、この人場所わかんないからってね。
 あと|添島《そえじま》、お前「|飯田《いいだ》|智《さとる》」がどこの独房で働いてるかちゃちゃっと問い合わせろ」

…あんた、あれからそんな無理する人になったんだな。やる気なかったのに、前回。

「あぁ俺、キャリアだから正直独房とか見たこと無いなぁ〜、メンバーって、|江島《えじま》の時以来知らないなぁ〜」
「えぇ?」
「いやぼやきですぅ」
「…ったく。
 添島追加!警備員の名簿、なんとなーくね!別に温室の変質的な興味だってさ!」
「言い過ぎじゃねぇですか、武宮さん」
「だってあんた嫌いだもん!」
「はぁ〜い。じゃ、嫌われ者は道に迷って第一取調室に連れて行かれまーす。あぁ最後に」
「なんですか」
「…向井の、彼女の病院、教えて下さい」

 こればかりは真剣に伝えると、無言で武宮さんは手帳に何かを殴り書きして切り取り、渡してきた。

「…ま、あんま行かない方がいいよ。調書じゃないなら、特に」
「…ありがとうございます」
「わかったら金輪際来ないでくださいね」
「わかりました、お待ちしています」

 「ったく」と、すれ違い様に肩を叩かれたが、あまり悪いものでもなかった。
 さぁどうやって詰めようか會澤。頭の中で組み立てる。

 捜査5課、案内してくれた高崎と言う男は、メガネですっきりとしたポマードの、地味な灰色のスーツを着た男だった。

 取調室に「お先に」と俺を促す会話以外を交わさない、静かな男だった。

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