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『大丈夫かおい、』

 と言う声に、漸く目を開ければ、政宗が俺を覗き込んでいた。

「…っ、」

 白い天井に白い壁、薄緑色のカーテン。目覚めたのはどうやら医務室だった。
 舌を噛むような痛みから、俺はいま尋常じゃなかったのかと悟る。
 深呼吸を自然と繰り返せば、「大丈夫か流星」と肩を掴まれ、その力強さに、漸く少しずつ安定した。

「…俺、は、」
「鮫島の事務所でぶっ倒れてた。正直死んだかと思ったわ」
「はぁ、」

 呼吸を落ち着かせればガラッとカーテンが開き、

「頭打ったけどなんもないってこいつ」

潤が呆れたように言っては、何故かうっすらと笑い。
 政宗と顔を見合わせて「ぷっはー!」と二人で爆笑し始めた。

「ふはははは!やべぇこいつ殺しても多分死なねーよ!」
「くっくっ、いや、俺はお前らどっちもやべぇと思う…ふ、普通さぁ、こーゆーときなんかしらあんだろ、バーカ!」
「は、え、」
「マージでてめぇら二人してバカかよおっさん禿げるわいい加減!マジ寿命縮む、お前ら先に死んじまえよなマジで」
「ははは!あり得る、あり得すぎるわっ!」
「嘘だよやめろし、マジ俺お前ら看取るくらい生きるが今じゃねぇよバカたれぇ!」

 笑いやめた。だがにやけ面で政宗は言った。

「…さぁて、事情聴取だ部長。お前、何があったかまず言え、全部洗いざらい。
 言わねぇなら鮫島殺害で現行犯逮捕だ。お前から電話掛かってきた時間、分かるからな」
「…あぁ、」

そっか。

「殺したも同然だ、二人とも…」
「…お前が人殺しなのは今更だろクソが。何ひよってんだよ鉄面皮」

 潤が心底嫌そうに言ったので。
 洗いざらい話した。全部覚えていた。言われたことすら、全て。

 二人はそれを聞いて、黙り込んだが、
長い沈黙の末、

「まぁ、俺のは半分事実だ」

と潤が言った。

「…それは、どこが」
「…父親のこと、そして、警察庁長官のこと。データは見た。確かに不自然に消えていた」
「は、」
「なんでそれ言わなかったんだ潤」
「言っても大差ないと思ったから。データはねぇし、あれは多分戻らない確証がある」
「…なぜ、」
「多分、そこまでやるだろ。敵方は」

 潤の理論に納得出来ないが。

「そしてわかんない、わかんないけど樹実さんの話はマジかもしれない」
「は?」
「じゃなきゃ…」

 潤は黙る。
 含みしかない。
 しかし潤は「うーん」と唸り、言った。

「ならまず環ちゃんだ。いまの状況がもしバレてるなら、環ちゃんが危険だ」
「あぁ、」

 確かに。
物凄く危険だ。

「だが…環は何も、」
「けどお前を落とす材料にはなる。そして疑問は、本当に環ちゃんが全部を忘れているか、どうか」
「確かにな…。
 エレボスからしたら環ちゃんが生きているとなりゃ、しかもお前の元にいるとなりゃぁ…」

そうかも。

「…お前、暫く事件から」
「それはない。だって」
「じゃぁ環ちゃんはどうするの。お前が家空けてる間。だが確かに、相手方がどうやって手を使うか、なんなら本当に知っているのかも、わからん。鮫島だけがもし知っていたとしたら、当の鮫島は死んだからな」
「まぁ用心に越したことはないな」

そして問題は。

「そもそもどこからのかも怪しい。いま迂闊に動けばまぁ、殺されるかもしれない」

 しかしあの時。
 鮫島の付き人は言った、「合図だ」と。
 つまりそれは俺が近々鮫島の元に行き、鮫島が死ぬとわかっていた人物だ。どこまでがマジかはわからんが、もしかすると鮫島は、あのネタを掴むために使われた、例えばマジだったら自殺、もしくわ俺に殺されろと言う指示があったかもしれないが、もしその仮説がマジなら、何故従ったのかもわからない。

何にせよ。

「わかった、俺は殺していない。あそこに防犯カメラがあったかわからんが、俺の銃弾は恐らく綺麗に鮫島の社長室にあると思う。あとは遺体の硝煙反応やら、なにやら」
「そうだな。お前の無実が出たら却って調べやすいな、あの会社」
「まぁ部下とか、共犯が証拠を消しているかもと考えた方が妥当でしょ。ま、叩けばボロしか出ないだろ。
 ついでに長官汚職が洗えればハッキリする」

 あ、頭回ってきた。
取り敢えず、

「…悪かったです、ハイ」

謝る。
かなりのヘマだ。

 二人は黙っていた。肯定でも否定でもあるのだろう。

「ま、帰る?取り敢えず政宗が護送してくれるっしょ」
「まぁするけど…なんかなぁ、お前の言い方ウザいわぁ〜」
「流星には悪いが進歩したか?ガチならな」

そうかもしれないが。
もしかするとこの先は。

「…酷ぇ暗闇だな」

 政宗がぽつりと、気持ちを代弁するように言った。

「…だがこれで終われなくなった」

 終結まで。皮肉にも樹実が、そちらへ方向を向けてくれたのかと、都合よく、捉えるしかない。

「まだ、」

まだ、終われない。

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