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「そんでさぁ」

 カーテンレールに寄り掛かったまま、潤は俺を見下ろして言った。

「どーすんの、環ちゃん」

確かに。
まずはそれだよなぁ。

「…まずは引っ越しかなぁ」
「お前の家、あれはガチなの?」
「ガチだよ。だって伊緒と帰ってるとこだったし、あの写真」

 まぁ正直場所がバレたところでなんともないが、問題はあの家に環が住んでいて、環が生きているとバレてしまったら厄介、ということだが。

「…環の存在がバレてなければ、まぁ、伊緒と俺が共に住んでいる、これだけならなんともないがな。確かに伊緒も元はエレボス、恐らくは“昴の会”の住人だし。まぁ、護身は出来るだろう」
「…ん、待った」

 政宗が怪訝そうに待ったを掛ける。

「環ちゃんの件、そもそも誰かにお前、話したか?」
「…誰かって?」
「俺ら以外だよ。なんなら…昔の仲間とか」

何故だ。

「…話してないけど、多分。環と出会って8年だが、政宗に俺がいない間の世話と、潤にはまぁな、話したよな」
「だとすると」

 思案顔で政宗は続ける。

「お前の恋人と言われたら、環ちゃんだよな」
「ぷはっ、」

 潤が吹き出した。
 俺も流石に赤面した。

「…は、はぁ?」
「え、なに伊緒りん恋人なのー?違うよねーお前はー」
「バカなの潤。当たり前だろこの野郎」
「いやちょい、ふざけてる場合じゃねぇから!
 俺さぁ…。
 帝都大の時、お前の伝言を預かってな」
「え?なに?」
「『恋人と幸せに』と」
「え、政宗、そーゆー良い話ちょっと今違くね?」
「違うわ、一見良い話だがほらお前。
 山下と仲間だったよな」

 ふと、ふざけていた潤が固まった。
 そしてちらっと、横目で政宗を見ているが、政宗は続けた。

「…祥真に言われた、と?」
「…あぁ」
「んー。
 あぁ、恋人ではないけど似たような話したなぁ。飲み行ったとき。それかなぁ」

 途端に「へ?」と、空気が崩れた。

「いや、うーん、隠語的会話で?あいつそーゆーやつだから」
「なにそのエロい感じ」
「流石にいま潤と同じこと思った」
「下ネタじゃねぇよ、大体政宗、祥真に会ったことありますよね、どう頑張ってもあいつ下ネタとか言わないよね」
「いや男だから。
 じゃなくて」
「あぁね。うーん、でもその時はなんだ?パートナー的な話で」
「伊緒りん、俺?どっち」
「なにそれ潤。いまのノリで」
「いや、俺も同じ事を連想したぞ流星」
「はぁ!?
 あ、でも伊緒だけど、違くて、うーん…、祥真には恋人いそうだったよ」

 めんどくさくなって省いたが、何故か潤が「ふはっ、」と腹を抑えて苦しそうに息を吐いた。それに政宗も凄く珍妙な顔をして「なんだ、潤、」と声を掛ける。

「いや祥真は恋人の話をしたんだろうが俺が答えた隠語は伊緒でうーん…
生活の話とかになったんだよ」
「いや…」

 何故か潤がそう漏らす。
え、なんなのよくわかんないんだけど。

「あー、はいはいはい。見えてきたよおっさんは」
「何が見えたんだ政宗、俺も気になるよ」

 恐る恐る潤が言えばちらっと政宗は潤を見上げるが、すぐにまた向き直り、

「多分山下は恋人の話をしたんだがお前は伊緒の話を返した。
 だが隠語だから確証ないよな。なに隠語?」
「ネズミと猫のアニメ」
「は?」

ぽかんとされた。

「てかぁ、多分俺らの会話聞かないと雰囲気わかんないから。
 まぁ祥真があのときな、俺は恋人の話をした、と勘違い、てかまぁしそうな会話だったから勘違いしたんだよきっと。それに対して言ったんじゃねぇか?」
「んー…なんだろ、釈然としないな」

言ってて俺だって釈然としないわ。

「…つかなんで?」
「…んー。まぁお前らには悪いが俺、あの男あんま、どうしても信用してねぇからちょっと引っ掛かっただけだ。
 悪い、俺も疑心暗鬼だわ」
「…たださぁ」

 しかし潤が、何かを考えるように言った。

「例えばじゃぁそいつが黒だったとしたら。
 つまりバレてるよな。ホントにそいつが黒ならな、どんな会話をしたか知らないが例えばその会話から流星を調べたとしよう。
 お前自身にはありつけなくても環ちゃんには、行き着く可能性があるよな」
「…そんなに緩かぁないんじゃないか?流星だってわりと警戒して病院とかに通ってたし」
「けど家バレてんじゃんこいつ。
 いや、環ちゃんが家から出てねぇなら、ホントにただまぁ、後輩と?家を帰ってる姿が撮られちまった。
 引っかかんのは恋人をお前もそいつも仄めかしていることだろ。
 いや、お前が生粋のホモ野郎なら伊緒が恋人、で終わる話だが、大体の人の感性はそう結び付かないよな」
「…祥真はまぁ、俺が普通なのは知っているが、…関係あるかな?」
「まぁ、得なんてしねぇしな。だが確かに引っ掛かるには、引っ掛かる」

んー。
それはそうなんだが。
なかなかそんな意味のない話、どうなんだ?

「あ、伊緒は確か、祥真にあったことあるぞ」
「じゃぁ黒だったとしても」
「流星、あいつにホモだと」
「思われてねぇだろ流石に!
 大体よくあることだよ、スナイパーなら同性同居なんて。行動的に楽だもん。あいつ多分そんな乏しい感覚じゃぁ…」

ん?
じゃぁ、あいつの言う俺の恋人って誰だよ。

 そこには二人も行き着いたらしい。
 各々考えるような表情だ。

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