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 それからあっという間に忙しなく年末は過ぎ、新しい年を迎えた。

 伊緒と環と、三人で初詣に行き、祈りとは複雑だと、そう感じながら元旦は過ぎた。

 もう少しで部署が出来て一年になるのだと自覚したのは1月6日。
 警視庁、警察庁、厚労省などから、山のような『調査報告書(早急対処)』が送られてきたのだった。

 まずそれを見た潤は「あけましておめでとう」より先に、「うわっ、」と言ってから嫌そうな顔をして俺の左隣のデスクに座り腕組みをして「おい部長っ、」と不機嫌を露にしたのだった。

「なんなのこのゴミクズは」
「…あけましておめでとう。
圧と言うやつですな」
「なんなのこの紙屑」

 右隣のデスク、出勤していた政宗までこんな感じで。恐らくこれを俺のデスクに置いた犯人だろう。

俺のジャパン挨拶は紙屑の元に散ったらしい。

 最早居にくい空気で二人の間に位置する自分のデスクに座れば各々が書類を手にし、無言で紙を捲る音がする。
 後から出勤してきた後輩たちには皆、「あけまして」と、二人とも返していた。
 
 最後、始業挨拶一分前だった。

「Happy new yearアケマシタみんなー!」

 まさかのユミルが出勤してくるという珍事態が発生。
 部署が無言に騒然としたのは言うまでもなく。潤が「あ、お前ユミル」と言うを制し、

「ユミル、君は長期休暇を与えまし」

 勝手にユミルは俺のデスクに近付き、紙の束の一番上のやつを手に取り「ナニコレ」と一言吐いた。
 祥真の国勢調査結果だった。

「ショウどうしたの」

そう言えばそうか。

「お前が選挙に行ってる間に国勢調査入ったんだよ」
「ナニソレ?リュウのトリッキーがバレたの?」
「ふっ、」

ウケた。
潤が。
 しかし政宗がイライラ気味に「うるさいお前ら」と吐く。

「ユミル、お前長期休暇なし。働け。マジで俺ら圧が半端ない」
「えー、誰殺るのー?」
「なんでそーなるんだよ!
 うーん、お前ちょっと脱獄した江島探してこいよ。殺り合ったんだし」

 政宗がぞんざいにユミルを見ずに言った。
なにその雑さ。
 案の定ユミルは不機嫌そうに「ヤダ」と言った。

「ヤダぁ?」
「だって手掛かりあるの?殺しちゃってもイイ?」
「ダメに決まってんだろ」

どうやら副部長。
非常に機嫌が悪いらしい。

 俺と潤なら黙るだろう政宗渾身の睨みにも屈せずにユミルは「ヤダ」と再び言った。

「探して殺してくるのが僕の仕事じゃないのリーダー」

 睨むように不機嫌面なフランス顔を見て、少し前の過去を思い出した。

確かに、そうだった。

「…いまは違うよユミル」
「そんなことさせてたんだ、お前」

 そして俺への非難のような潤の嘲笑が来る。
 ユミルはそれで漸く黙り、潤に一瞥をした。

「…そうだけど?」

 最早開き直ってこちらも不機嫌に返すしかない。

「あっそう」
「過去だがな」
「過去ねぇ」

 「なんだよ、文句あんのか」と潤には言ってやりたかったが「あぁ、まぁな」に留めた。こんなことで喧嘩をしても今は仕方ない。
 様々な国で悪徳政治家やら、凶悪犯やらを手に掛けてきたはずだ。それは、樹実の後任なのかもしれない。
 潤とだってテロ組織に向かったじゃないか、いままで。けどわかってる、それとはまた勝手が違うのだ。

「…まぁ、別にいいけど」

 引き下がった潤を見て政宗が笑った。

「随分大人になったな潤」
「…いいからこの書類どうすんの」

 不機嫌は潤にまで伝染した。
 気まずいまま四人で途方にくれそうになったとき、「あっ」と政宗が言う。

 目線は俺の左手だった。
 年末当たりに作った指輪に気付いたらしい。
 仕事の雑多の中に、クリスマスというイベントがあった。
 人生2度目のキリシタンイベントのなか、そのイベントは感謝を伝えたり、サプライズしたり。なんかそんな行事だと教わったのだ。

 で。
結果、告白をして(まわりに大分焚き付けられた)リングを渡すという、考えてみたら大分順序を間違えたような間違えていないようなクリスマスになったのだけど。

 それでもまだまだ、俺は自信を持てないままで。ただ、受け取って泣いて喜んでくれた環に俺まで泣きそうになった(伊緒は泣いた)出来事だった。
 焚き付けたヤツその@、俺の左側に座る潤もどうやら政宗の「あっ」で気付いたらしい。
 こっ恥ずかしくて実はこのリング、この年始めから着けようと決めたらこの感じ。

「あれ、リュウ」

 ユミルまで気付いて視線は俺の左手へ一点集中した。
 悪い空気が一気に「ついにか」と言う潤の一言で変わった。

「えっ、えー!リュウ、君そんな子がいたのかい、ねぇ!僕聞いてないけど!」
「くははっ、よーやく肝を据えたか流星」
「赤くなってる赤くなってる」
「あぁぁうるさいうるさい!そーだよ!仕事しろよお前ら!」

 書類で潤と政宗とユミルを順番にぶっ叩いてから羞恥が勝り「外す、外す!」とリングを抜こうとすれば。

「男たるもの容易に誓いを外すなバカ!」

 既婚者だったことのある政宗に書類で叩き返され俯くしか出来ない。

「はいはい、めでてぇめでてぇ。後で飲み連れてくからいまはこのゴミ!片付けるぞ」
「つかシュレッダー掛けていいマジ。大して読んでねぇけど」
「アホかダメだわ!」
「僕日本語わからんからシーユー」

 逃げようとするユミルに「ほら怪物ぅ!」と政宗が5束くらい無理矢理押し付け、「ちぇっ」とユミルは不機嫌そうに書類を手にデスクに座った。

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