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 しかしちらりと見れば環はどこか、
顔はクッションからあげてくれたがテレビでもなく、空中なのかテーブルの上なのかを、寂しそうに眺めては、言葉を探しているように見えた。

だけど。

「環、」

 だから手を伸ばして、肩を抱いて「ごめん、」と言うしか出来ない。

「邪魔だとか、考えているならそれは違う。だけど俺では、守れないかもしれない。俺は君には…」

幸せになって欲しい。
 言えない。
 どうして言えないんだ。本音なのに、少し違う気がしてしまう。

「…私の過去が、関係するのでしょうか、それとも、貴方の過去でしょうか」
「…あの、」
「どちらにしても私は…、こうした貴方の温もりを亡くす日は、もう…」

 何が言いたいのだろう。
どうしてこんなとき、わかってやれないのだろうか。スケッチブックでもなく、きちんと話を、しているのに。

「…出来ましたよ、お二人とも」

 伊緒が見計らったのか、夕飯を持って来てくれた。
 いつもなら手伝う環が、一筋静かに涙を流すのを見て、居たたまれなくなった。
 泣かせるのは初めてだった。

「…ご飯も持ってきます。味噌汁は、冷めちゃうから後でにしましょうか、環さん」

 生姜焼きを置いて伊緒が言い、またキッチンに戻る。
 どうして良いかわからなくて、より腕に力を入れて引き寄せ、「ごめん」と告げる。

「…君にそんな顔をさせるつもりはなかった。もう少し俺が」

ちゃんとしてれば。

 堰を切ったように静かに環は泣き始め、涙を拭った。

そんなに。
離れるのが嫌だったのか。
環、でも…。

 伊緒が今度はご飯をよそった茶碗持ってくれば、「どうして…?」と弱々しく環が言う。

「環、」

 伊緒も心配そうに環を見るが、「まずは食べましょ、お腹すいたでしょ環さん」と宥める。

「…流星さんも意地悪を言っている訳じゃなく、その人は「俺が守る」とか、貴方に言えないんですよ環さん」
「へ?」

ん?

 環が伊緒を見つめるも、伊緒は構わず「いただきます」と手を合わせた。

「…でも俺は流星さんの気持ちはわかります。無責任にそんなこと言えないんだってことも。
 カッコ悪いかもしれないですが、却って正義でかっこいいと俺は思いますよ流星さん」
「伊緒?」
「ただ言葉が足りないんだ。俺はちゃんと話せば良いのになと」
「…そうなんだけど、」
「話せない理由が環さんにあるんですか」

 どうも、伊緒は機嫌が悪いらしい。
そうかもしれない。
 俺もそうやって樹実と、喧嘩をしたかもしれない。

「…辛いなぁ、どうも、」

 やはりなかなかヒーローにはなれない俺にイライラもする。

「…俺は昔そうやって、保護者と、樹実と、喧嘩したよ多分。あの時の樹実はこんな気持ちだったのかもな。俺はどうやら、ヒーローになんて」
「やめてください、」

 環が言った。

「…お腹、すきました。
伊緒くん、ありがとうございます。いただきます。
 流星さん、ごめんなさい、考えさせてください。私には、まだ…」

 なにも言えなかった。
 ソファから降りて環は静かに「いただきます」と言った。

 俺も一段降りてそれに習う。
 もう少し、考えるべきかもしれない。

「…今日、ホントは渾身なんですよ、生姜焼き」

 伊緒もそれ以上は攻めることをやめた。

「…もう少し、俺も考えるよ。悪かった」

 しかし伊緒は環を見つめていた。
多分、少し批判的だ。

 この場はこれで終わった。あとはドラマが終わり。
 寝るのだって、いつもと変わらずに、環と布団に入って。

 ただ、いつもとは違い環が背中に抱きついてきたので、やはり少し、自分が情けなくなった。こんな時、その手を握ることしか出来ない自分の臆病さが、妬ましい。

 確かに本当は言ってやりたかった。
「心配要らないよ」と、それだけを。カッコすらつけられない。それが無責任になるからだ。

本当は過去なんて誰も拭えない、だが亡くなってしまったからには取り戻せない。

 寝息は暫く聞こえなかったが、どうやら暖かさはあった。それがより俺も、きっと環も、切なくなってしまうのは何故か。

もう少し俺も無責任な方がいいのか?幸せなのか環。

ダメだ、きっと、これは寝れないと、寝室の壁を眺めて俺は過ごしてきた15年を思った。

一つも、俺は樹実に近付けてなどいなかった。

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