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 部署の前辺りに来て本当に潤は何事もなかったかのようにちゃんと立って歩きドアを開け、やっぱり何事もなかったかのようにデスクに座り、腕を組んで一息吐いた。
 端から見たらあんなふらっふらのグロッキー潤を誰も予想しないだろう。

なるほどね。
言わないでって、こーゆーことか。

「あれ、政宗いないね」
「…あぁ、司法解剖でカルシウム取ってくるってさ」
「ふうん」

 いつもならツッコむだろうに。やっぱ少しは余裕がないのか。
 潤はジャケットを椅子の背凭れに掛け、シャツを腕捲りし肘を付いてパソコンを眺める。

確かにやっぱ、どことなく痩せたな。

 少ししてからノックがあり、「すみません、お持ちしました」と辻井がやって来た。
 しかし潤は背後に目もくれず「はいサンキュー」と手だけを出した。

 辻井はわざわざ後ろから手を伸ばして潤のデスクに書類を置くが、それに言及をせず。
 潤は貰った紙の束を目にしては「ありがと」と、やはり辻井には目もくれずぞんざいに言った。

 そのままいつもの、パソコン打ち&書類に目を通しながらメモをする気持ち悪いスタイルの潤に戻っていた。
 辻井も少し溜め息を殺したようにも見えたが、「失礼します」と戻っていった。

「…なぁ潤」
「なに」

 かりかりかりかり。かしゃかしゃ、ぺらぺら。最早目の前の仕事のみといった具合。

「ちょっと冷たいんじゃないか?」
「いや鉄面皮ほどじゃないっしょ」

 一度手を止めては書類を眺め直し、またかりかりぺらぺらを始める潤。
 俺もまとめなきゃなとまとめ始める。
 しばらくして政宗が帰ってくるのと同じく「はい、あげる」と、辻井に貰った書類をぺいっと渡してきた。

 思いの外綺麗にメモされている。流石変態。あの短時間でA4紙10枚を処理しやがった。
 圧倒されて受け取れば漸く俺を見て、向こうに座った政宗にも気付いたらしい。

「なにしてんのぶちょーふくぶちょー。早くやんないと終わらないよ」
「あぁ、はい」
「…帰ってきたらなんなのお前のストイックやる気」
「スイッチ入ってんの。飲み行くならマジ今日中に終わすよ」
「えっ、」
「げっ、」

 次はひたすら電卓を左手、パソコンキーを右手にかしゃかしゃかりかり始める。

すげぇな毎度ながら。
発狂しませんようにと祈るばかりだった。このモードの潤は大変トリッキーだ。

 結局潤は途中からやはりぶつぶつ何かを言いながら根詰めてやっている。拾える単語的にはホテル爆破だろう。
 
 しかしそれも慣れた日常だ。今更邪魔になることもなくなった。
 年明け初日、漸くまた仕事に戻った気分に浸ったところで終業となった。
 合図の鐘の音が鳴った瞬間、「いよっしゃぁぁぁ!」雄叫びを上げた潤。若干それにはビビってキーを叩き間違え、3文字くらい消してしまい、慌てて直すも、

「政宗ー!行くぞ飲みにー!」
「…いやお前マジでか」

左隣がうるさい、右隣がげっそり。
 3文字終わって顔を上げれば「流星さん」と、伊緒の声がした。

「俺は先に帰りますね」
「あぁうん。すまん。
 確か魚とかあったと思う」
「わかりました。お気をつけて」

 それを合図に皆解散。

「さー飲みに行くぞーマジでー!」
「潤、一応こいつのお祝いだからなマジ。飲みすぎてグロッキーとかあかんやつだからな」
「…政宗奢りですか?」
「当たり前だろ」

よっしゃ。

 漸く3人でパソコンを閉じ、部署から出て、「どこ行きたい流星」と振られるが。
正直あまり詳しくない、この辺。

「うーん」

 とか言ってれば「じゃ、昔の行きつけな」と言われた。

「樹実の奢りで大体連れていかれた料理屋。個室あるし、ゆっくりたまには飲むか」

あぁ、それ。

「和食屋?」

 潤が政宗に訪ねれば「なんだ、行ったことあんの?」と。漸く二人のギクシャクも解消されていた。

「…てか、潤と初対面の場所かも、そこ」
「え?そうなの?」
「学校バックレた日だよな。保護者会議とか言って」
「そうそう」

懐かしいな。

「…あぁ、そうかい。
 俺は確か特テロ出来てすぐの新歓だな。そっか…」

 政宗は夕陽を眺めながら染々と言った。「もう、大分行ってねぇや」と。

そうか。

「…雨さんとはよく行ったよ、俺」
「あぁ、」

いなかったからなぁ、部署に。
 潤は楽しそうに語る。

「あの人忙しかったし、料理下手だったんだ」
「…意外だな、あ、でも…」

 初対面でそう言えば訓練所のあの人の部屋、掃除したよなぁ。

「…歳食ったね、俺ら」

 振り返るように潤はそう言った。

「気付けば俺なんて、同い年だよ」

樹実と。

「…ほれ、乗れ、お前ら」

 懐かしんでる中、政宗が振り切るように言った。
確かに、どうあってもあの過去は、こうなる。

 「帰り大丈夫かよ」だの「検問くらい大丈夫だよ。お前に言われたくないわ」だの、潤と政宗が話している。
 そのまま助手席に乗り、潤は後部座席に乗って、あの料理屋に向かった。

 俺は実に、8年ぶりだった。

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