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 目を覚ましたときは昼の日差しと、慌ただしい扉の開閉音だった。

「いたな、潤、」

 病的なパリッとしたベッド。
 「んー…」と寝ぼけた祥ちゃん、突っ伏した俺。
 政宗が慌てたように入ってきたようだった。

「朝からこんにち」
「おい、流せ…。
 山下、お前…」

 忙しい奴だな全く。

「忙しい人ですね荒川さん」

 祥ちゃんもそう言っている。
 祥ちゃんは利き手の右手、俺の側にある腕に体温はない。起きてしまった俺に何かしようとするんだけど、「あ、忘れてた…痛ぇ…のか?」と俺に微笑みかけた。
 右肩から先まで、祥ちゃんの神経はほぼ、亡くなったのだった。

「…」

 一度それを見た政宗は、考えるように見つめてから平然を得たらしい。

「流星知ってるか潤」

 と、重々しく言うのだった。

「あぁ、多分いま、地下の解剖室だよ」
「解剖室て…。もしかして、環ちゃんか?」
「…うん、そう」

 あれから俺たちは。
 即電話してここ、警察病院に辿り着いた。どこをどうして解剖室を借りられたかは知らないが、お得意の「なんちゃら特権」だろう。
 使おうにも、祥ちゃんが取り次いだようだが…。

「…連絡取れないから…ビビったんだけど」
「うん、まぁ生かしてるよ」
「で、」

 政宗はそれから、まだ緊張を解かずに祥ちゃんを睨んだ。
 祥ちゃんは何事もないような、済ました顔で「ユミルは生きてましたか」と聞いたのだった。

「…あぁ。
 下の階だ。ビビってPTSDこいてるがな、」
「…生きててよかったで」
「てめぇのせいだろ山下!」

 掴み掛かってしまったが、まだ俺は「病人だから」と言うだけにした。
 これは間違いなく俺にも来るからだ。

「病人だろうがなんだろうがな、こいつは…、
お前、どの面下げて潤といるんだ」

 左手で祥ちゃんは一応政宗が掴みかかってる手を制するが、政宗は一回離すも今度は髪を鷲掴みしてしまったので

「あーあーちょっと禿げるからやめろよ政宗」

と止めに入ればぶん投げるように離す。痛かったらしい祥ちゃんは無言で前髪を擦っていた。

「…お前、」
「うん」
「スパイ容疑って…」
「うん」
「いやうんじゃなくて」
「うん」
「荒川さん、それならまぁ、多分懲戒免職ですから」
「あー、祥ちゃんいまは黙っ」
「お前ふざけんなよ山下!」

 また掴みかかりそう。

「待って待ってはい!マジそれは祥ちゃんの最後の隠蔽だから!うん、ほら、ブタ箱入ってないだけましだから!」
「…けど!」
「まぁ、」

 そう。
 俺は山下祥真の一件で、というか今までの仕事で、懲戒免職を食らった。
 つまり、警察官、及び警察関連の仕事はクビになったわけである。しかし、スパイ容疑は帳消し、変わりに正当防衛の傷害罪を化せられ、前科はついてしまった。
 自動的に、特本部のあの場所はもう、俺の場所ではない。
 
「まぁって…」
「…俺、警察嫌いだし。事実、ブラックな仕事を、職権濫用でやってたから、マジで」

 祥ちゃんは黙っている。
 だが申し訳無さそうではあった。

「祥ちゃんは祥ちゃんで、免職だし。
 いいよ、まぁ…」
「ふざけんなよ、お前俺が…、」
「わかってる。けどごめん」
「わかってねぇよ、…それ」

わかってねぇかも。
教わったこととか、まぁでも、無駄になってないよ、多分。

「あの、非常に言いにくいんですが…。
 あそこ、モグリ団体だと俺、国勢調査の時、厚労省には報告を実は別で入れたので…その…。
 多分潤は、モグリでやっても問題ないと思います」
「なんだっ…てぇ?」

 後半勢いを落とした政宗と、「へ?」が被った。

ん?

「え、なにそれ」
「んー…。
 俺も高田さんと昨日以来連絡取れてないから、最早君は懲戒免職で間違いないだろうけど…。俺のボスFBIのアメリカの人だから。あんな日本支部とかいうラットよりはFBIの中じゃ有力だから」
「えっ、なにそれは一体」
「君らはほら、高田傘下でしょ?俺は日本でモグリやるときしか高田さんとは付き合いないけど、そもそもFBIって本拠地アメリカなんだよ潤ちゃん」
「んんん?」
「まぁ、そうなるよね、高田傘下だと」

なに、よくわかんないけど。

「山下それは何を言って…」
「言うてお宅、元エレボスの犬飼ってるじゃないですか」

ぎくっ。

 と言いたそうな表情で政宗は祥ちゃんを見た。しかし、「あーなるほど…」と頭を押さえた。

「警官じゃねぇが潤は雇えるって言いたいわけね」
「はい、まぁ…最後に出来ることはそれだけですが」
「最後って…」

 政宗は漸く祥ちゃんの、動かなくなった右腕を眺めた。
 そして俺を見て「お前さ…」と続ける。

「皮肉にも、まぁよかったな山下。俺は後輩に優しく指導してき」
「祥ちゃん大丈夫?禿げてない?」

 無視した。
 「噂通りゴリラだね」と、優しく祥ちゃんは言って俺に前頭部を見せて来た。
 「あー、禿げたかもね」と冗談を言い合う俺たちを見て、更に疑問をぶつけてきた。

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