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少しの間、黙っていた。お互い黙っていたら、漸く潤は顔を上げ、頬杖をついた。泣いてはいないようだった。
「…ごめん」
「…は?」
「…いや、ごめんなさい」
「…なんだよお前」
「嫌なら…いいから。特本部だって、別に辞めていい。正直お前は来てくれないと思ってた」
「…ふざけんな」
「ふざけてない」
「ふざけてる。お前は何もわかってない。
昔から変わんねぇなお前は。俺がなんで来たか、お前の顔なんて二度と見ないと決めたのに、なんで来たのか」
そりゃぁ、わかるわけねぇよ。
「…お前を殺すのはどうやら俺の役目になったな、流星。
俺はな、お前を殺してお前の骨を拾ってやるよ。お前なんかより先には死んでやらん。そう決めた、今」
「…うん」
「てめぇだけ背負った気になって気持ち良くなってんじゃねぇよ。あの人はてめぇだけの先輩じゃねぇんだ。俺だって、あの人に救われた。俺だって、お前を救えなかった」
「…うん。ごめん」
「謝るのはまだ先だよ。悪かったな待たせて。早く行こうか」
何かを決意したように潤は立ち上がった。
漸く俺たちも部署を出る。
「なぁ、あの人に手錠を掛けるのは、俺でいいか?」
「え?」
「タイミングによるけど」
何を言い出すかと思えば。
「別にいいけど」
そう答えると潤はふと笑って、タバコをくわえた。
そのまま外に出ると、車は前に止まっていた。運転席から潤を見て、政宗はニヤリと笑った。
「お送りしますぜ、姫」
「…火、貸して」
「へいへい」
潤はそのまま助手席に、俺は後部座席に乗った。
待ちくたびれたユミルは奥で、マシンガンを抱き締めてうとうとしていた。
「仲直り…したんだね」
「してないよ」
「あぁ、してない」
互いに言えば政宗が笑い出す。そして、車を発車させる。ユミルはそのまま寝てしまった。
「…あんたはさ、いつもどうしてそんなに気が長いの?」
「え?」
「でもさ、その気の長さは俺たちは教わらなかった」
「自覚あんだな。
気が長くなきゃ刑事なんてやってらんねぇだろ。ましてや初めて持った部下、後輩ががお前らだったんだ」
「まぁ…」
「最初は手ぇ焼いたよ。最短精神でワガママな口の悪い美人と単細胞の無駄に物わかりが良い精神破壊気味のイケメンって。なんなんだよってな。しかもメキメキと俺より優秀になっていきやがって嫌味かっつーの。ただ、腕が良いだけで性格に問題あり、なかなか教育係を辞められない。お前らにはお手上げだったさ」
「ここに来て愚痴かよ」
「まぁ…謝ることしか出来ませんけど…」
「でもさ、まわりは言うわけよ。お前さ、前より生きてんなって」
そうだったのか。
「当たり前だよな。まわりなんて、熱血漢の優秀な銀河と、紳士みてぇな優秀な樹実がいたんだから。俺なんてそれに比べたら…って卑屈になった時期があったよ」
「そう…だったんだ」
「でも、俺にとってもあいつらは…良い仲間で良いライバルだったよ。俺なんて全然足元にも及ばないけど。憧れだったはずだったんだ」
「政宗、あのさ」
「なんだい?」
「…あんたは、なんで俺を見捨てないんですか」
あまりにも懐かしそうに語る政宗が、少し、心に痛い。
「…さあ。
まぁ、好きだからだろうな。手が掛かる子ほど可愛いってね」
「あんたは、自分のことを卑下するけど…」
俺は…。
「俺はあんたが一番優秀だと思う。これは、気休めにしかならない言葉かも知れないけど…。
だって、多分あんたがいなかったら、俺は今頃こんな職はやってない」
「…お前に散々人を殺させてもか?」
「え?」
「だって俺、今やお前の唯一の先輩だし。つまり、そーゆーことだろ?」
「それは…違うよ。買い被ってる」
「ははっ、染みるねぇ」
「俺は…」
誰のせいでもない。ただ俺は俺の意思で、人を殺して稼いでるわけで。
「流星」
「…はい?」
「お前少し痩せたな。ちゃんと飯食ってるか?」
「ふっ…」
その政宗の一言に潤が吹き出した。
「彼氏かよ」
「いや、お前からは取らないよ怖いから」
「あ?」
「確かに潤の色恋沙汰は怖そうですが俺は違います」
なんせ潤は天然タラシ野郎だ。浮いた話を何度聞いたか。
「そう言えば潤、最近聞かないな。遊んでないのか?」
「いや最近久しぶりに再会したばっかじゃん俺達。
でも恋愛は聞かないで。最近壮絶に振ったばかりだから」
「うわ」
「お前が自覚あるってことは余程だな。なんて言って振ったの」
「聞くなって。
『君みたいなストーカー女はアイドルを追いかけてねクソアバズレ』って」
「ひでぇ…」
よくホント、そんなにペラペラと悪口が出るもんだ。
「何故か他人である俺までダメージ」
「だってケータイ見るだけならまだしも仕事のパソコンまでロック解除しようとしやがってさ。
タチ悪いことにそいつFBIだったわけよ。こりゃまずいと思ってさ。
挙げ句俺のヤバめなAV漁ってキレやがってさ。じゃぁてめぇのこれはなんだよって彼女のエロ本?なんかホモの本見せつけてやったら首絞められてさぁ。頭来たから振ってやったよね」
「怖い怖い怖い」
「それはでも、類友な気もする…」
「でもそいつ浮気してたからね。まぁ俺もセフレがいるといえばいるんだけどバレてねぇからチャラとしてさ」
「うわぁこの下半身野郎!」
「最低だな…。そんな可愛い顔してなんなんだお前」
「でもセフレもみんな切っちゃった。なんかもうどうでもよくなっちゃってさ」
聞けば聞くほどのクズっぷり。
「なーんかさ、自分勝手に抱いてくれる人なかなかいないんだもん」
「ん?」
「は?」
「ねぇてかまだ?ここどこ?」
「ん、あぁもうちょっと…。潤、今さらっと投下した爆弾はほっとくのか」
「え?どこに爆弾があるの?」
なんだこいつは。
「一個前の会話だな」
「何、もう俺あんま話したくないんだけど。眠いし。流星は|環《たまき》ちゃんとどうよ?」
「そこでそれ入れるの?
いやぁ別にってかお前今日会ったじゃん」
「そーそー。もうさ、こいつ本気で幸せそうな顔しやがってマジムカつく」
最早こいつのお喋りは女子高生並みだ。
と言うかさっきの爆弾のせいでなんか口調とか今まで気にしなかったけど、変に聞こえてしまう。
「あれ、なんで二人とも顔引きつってんの?」
「…俺怖いから姫って呼ぶのやめようかな」
「ついでに俺を王子と言うのもやめてください、誤解が生じる」
「え?何言ってんのお前ら」
「ズバリ聞こう。お前そっちなのか」
「あぁあ!政宗、なんで聞くんだ!」
「は?そっち?」
「いや、さっきさ、自分勝手に抱いてくれる人が云々カンヌンって」
なんかヤバイ、何故か俺が恥ずかしくなってきたじゃねぇかよクソ潤。
「あぁ、言葉の綾だよ」
「は、」
「え、どーゆー?」
誤魔化しきれてない誤魔化しきれてない。潤、それ誤魔化しきれてない。
「あ、着いた」
政宗、ひと安心した顔でそう言った。
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