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「あ、ちょっと…俺行ってきます!」
諒斗がそんな静寂を破り、インカムに耳済ませて言った。
「どうした?」
「追えとのことです」
「諒斗はいい。瞬、行ってこい」
「はい」
そう言えば来栖を追ったのは誰なんだろう。
「なぁ、来栖は…」
「あぁ、愛蘭だよ。明日には分かるだろう」
「では、行ってきます」
瞬は霞の盗聴器を受け取り政宗に自分のイヤホンを託し、車から出ていった。
「霞は今日の任務終了だ」
「わぁい!じゃぁ帰りまぁす♪お疲れさまでぇす!」
あっさり、笑顔で車から出た。「お疲れさま…送っていけなくて悪いな、気を付けて帰れよ」
「平気です!」と言い、疲れを微塵も感じさせずに帰って行った。
間もなくして、問題児、潤が帰ってきた。いくらか顔には疲労が見て取れる。
「お疲れ」
「お疲れ。お前の方が早かったか」
声も掠れている。無理したっぽいな。
「お疲れ」
「お、お疲れさまです…」
潤はタバコに火をつけ早々に政宗に薬を渡した。隣に座る諒斗を見て、「悪かったね」と、疲れた笑顔で労う。
「潤さん…大丈夫ですか?」
「あーもう疲れたよーなんなのホント」
「報告は?」
政宗は潤の顔すら見ずに言い捨てた。多分、こりゃ怒ってるな。
それを察したのか潤も表情を引き締め、「黒」と言った。
「面接段階で枝野と名乗る、もうどう見てもヤクザにその白い方渡された。新規客狙えってよ。常連には売れって。
赤い方は、アフターの時使えってさ。アフターピルみたいなもんだからって。やってみたら快感ハンパないよとも言われた」
その、潤が持ってきた通称アフターピルは、俺が押収してきたものと全く同じものだった。
「ホストもジャンキー揃いでね。出勤前に一発キメて出勤みたいなやつもいた。會澤組からそれ、買ってるっぽいね」
「来栖って女来た?」
「誰それ」
「うーん、真っ赤なドレスで茶髪カールの、30後半くらいの女」
「あぁ、本郷《ほんごう》さんね。来たよ…てか、オーナー婦人だろ?」
「え?」
「あぁ、あった」
政宗がパソコン画面を見せてくる。
本郷恵子《ほんごうけいこ》、42歳。Hestiaの現オーナー代理とある。写っている写真は確かに来栖万里子だ。
「マジか」
「来栖万里子と本郷恵子は同一人物だとして…となると、こいつ、何者だ?」
「洗ってみる価値はありそうだな」
「多分この女、だいぶヤバイよ。やっちゃってるし、なんかさ、俺あんな堂々と札束だらーって広げてるやつ初めて見たよ。
最後はすっごく本調子で若い子捕まえてトイレ言ったよ」
「おぇっ」
吐き気が。色々想像すると股間が痛くなってきた気がする。なんかキス避けてよかった。いやよくない。
「え?なに流星」
「いや、ちょっとなんでもないです…」
「いいじゃんお前なんてまだ一人だろ?俺何人から事情聴取したと思ってんだよ。
まぁおかげで確信を得たよ。
あの店は會澤組のまぁ…商店で、多分…闇金借りまくった結果そうなったっぽいんだよね。まぁまだわかんない。
そしてあそこは従業員入れ換えがもの凄く激しい。実はつっこんだ内容を知ってるやつがあんまりいない。
あとは予想だと…。人柄、会話内容から察するに、前科者を引っ張ってきてるような感じがするんだよね。何より素行が悪い。あと変態が多い。マジ刃物出されたときどうしようかと思ったわ。ね?」
諒斗に話を振る頷いた。
「…てか潤さんハンパないですね。大丈夫なんすかいろいろと」
「いやぁ疲れた。客も従業員もみんなクソ。俺くらいのクソじゃねぇとメンタルやられるわ」
「潤、」
黙って聞いていた政宗が、思いのほか優しく低い声で潤を呼んだ。
「お疲れさま。大変だったな」
政宗が後部座席を振り返った次の瞬間、空気を裂くような音がした。視界の端に何かが素早く動く。
身を乗り出すように潤の頬をぶっ叩いたようだった。丁度、倒していた背もたれのせいであっさり届いてしまったようで、潤は唖然としていた。
「何してんだてめえ」
そう政宗が言うと、状況を把握した潤は、反抗的な目で政宗を睨み付けた。
「何ってなんだよ、仕事だよ」
「やり方ってもんがあんだろうが」
「なにが?意味がわからないんだけど」
「てめぇな、いけ好かねぇつってんだよバカ」
「はぁ!?」
「なんでそんなにてめぇを安売りすんのかって言ってんだよ」
その一言に潤は黙る。
「てめぇ自分をなんだと思って仕事してんだよ、潜入捜査してんだよ。誰も乱交パーティーしてこいなんて言ってねぇだろ!」
「…お前さ、俺別に女でもねぇし柔でもねぇよ。なんかナメてねぇ?」
「女でも柔でもねぇからなんだよ関係ねぇよ。てめえだから言ってんだろうが」
「全然意味がわかりません。トチ狂ってんのかてめえ」
「潤、政宗にその口の利き方は俺が怒るぞ。
諒斗、悪い。今日は帰ってくれ。無責任なこと言って申し訳ないな。
てめえらまずいい加減にしろ情けないな。後輩ビビらしてどうすんだよ。
政宗、諒斗を駅まで送ってきてください」
「お前が行けばいい。俺はお前にも」
「上司命令です。話しは後でゆっくりしましょう。まずは諒斗が可哀想です」
政宗は怯えた諒斗を見ると言葉を飲み込み、「…悪い。送る」と言い、諒斗と共に車から出て行った。
俺はケータイを取りだし、瞬に電話を掛けた。
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