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あぁ、ダルいなこれ。
相手はどうやら純粋なバカだったようだ。しかし見た目に反して我が強そう。

「洋巳…、お前どうしたんだよ」

あら、これはこれはお仲間が登場してくれましたな。じゃぁいいか。見守ってよう。ダルさ半減。

「寿樹さん、貴方にはお世話になりましたね。しかしお世話もしましたよ?忘れ物が多くて…」

 取り敢えずしばらくは出る幕は無さそう。

「流星、お前顔に“ダルいなぁ”って書いてあるけど」
「ダルい。早く勝手に終焉を迎えてくれないかな」
「それって職務怠惰って言うんだよ」
「いい加減私も疲れた…私今女の子なんですよね。立ってんの辛〜」
「うわぁ、霞ちゃん最低!」

何言ってんだこいつ。
何ウケてんだ潤。

「は?常に女の子じゃねぇの?」
「え?」
「えマジ?うわー!ウケるー!
 霞ちゃん、どうやらこいつにはジャパニーズジョークは伝わらないらしい」
「いやジョークじゃないです!」
「流星あれだよ、子宮内膜剥離の日!」
「あ、あぁ…は?」
「潤さん死ね!」
「…お前らわりと最低だな」

今の若い子こんなにオープンなのか。日本腐ってんな。

 だが冗談を言いつつちゃんと来栖の手をガッツリ掴んで銃をしっかり向けているあたりプロ根性と言うか染み付いてると言うか。やっぱり怪物じみてるな霞。

「いやてゆーか子宮内膜剥離の日って…」
「ごめんなさい私が悪いですやめてください」
「流星、そんなことよりさ、あっちなんか凄くね?諒斗まで混ざって大変だよなんか」

少し見ないうちになんなんだ。

 確かになんか熱くなってるっぽい諒斗が見てとれる。

「はぁ〜、だりぃ。
 浅井さんも来栖さんもあっち行ったら取調べマジ容赦しないからね。お宅ら教育ヘタクソだわ。
 おい、話はまとまったか?」

 仕方なく若者集団に歩み寄る。

「ちょっと流星さん!こいつらマジ人の話聞かないよ!」
「そうか」

 困り顔の諒斗、なんか団結力が増したような若者集団。なんとなく、良い方向には転んでいないだろう。

 タバコに火をつける。はっきり言って、かったるい。

「で?」
「やっぱり、一緒に俺たちも浅井さんと共にいようと思う」
「うん、どうやって」
「それはこの…」
「あぁそう。勝手にすれば。
 あー疲れるな今回の仕事。なんなんだ」
「えぇ、それでいいの?」
「よくはないけどしょうがねぇだろ。じゃぁ諒斗ここで死ぬか?こんなバカ共とここで?俺はごめんだな。潤は?どうする?」
「は?聞くなよ」
「だってさ。霞ちゃんは?」
「嫌ですよ!」
「だよな。来栖さんは?」
「え…?私?」
「そう、あんた」
「…どっちでも」
「まぁあんたは状況が悪いからな。好きにしろ。
 外には保護してくれるやつらがいる。帰りたいやつは撤収しようか、バカらしい」
「…バカらしい?」
「あぁ、おおいにな。
 茶番もいいところだ。俺はそんなのに付き合ってやるほどお人好しじゃねぇよ。集団自殺したいならどうぞご勝手に。そんなバカと話してるのも時間がもったいないしここ数日の激務のせいで俺は疲れた。眠い。今何時だと思ってんだ」

 若者たちは、特に洋巳は呆れを通り越して唖然とした顔で俺を見つめる。
 それでもどうやら、俺の次の言葉は待っているらしい。

「…当の浅井はどうなんだ。生きてぇか死にてぇか償いてぇのか、そもそも悪いと思ってねぇのか。
 どれでもいいが第三者から言わせてもらえば、そんなのどうだっていい、ただ、浅井、あんたは頭がおかしい。
 若者達を洗脳してヤク売りさばいてボロ儲けして、いざとなったらその若者達と自殺。あわよくば捜査員と共に抹殺か。しかもその命綱を若者に握らせようなんて、セコいしズルいし小癪だししゃべぇし、俺ならあんたの洗脳には意地でも掛かってやんないね。
 ただ、彼らは若い。まだまだ世間を知らない、世界を知らない。だからあんた、選んだんだろう。良い人選だな。これは皮肉だよ。クズらしい考えだ。
 ここにいる全員、どうも自我がないよな。誰かが言ったから、何かがそう動いたから、誰かのため、何かのため。で?肝心の何かはどうした?誰かはどうした?自分はどうした?
 いいか貴様ら。自我を持って何かをしようとしないから失敗すんだよ。一から自我を保てばこんな店、ちゃんとクリーンに経営出来たんじゃねぇのか?それも誰かのせいか?そんときは自分のせいだ。ただ楽したいだけだろ。大層自堕落な人生踏みやがって。そんなヤツのために何人ヤク中にしたと思ってんだ謝れ粗大ゴミが。
 本気で死にてぇヤツだけよーく聞け。死ぬのなんて死ぬほど簡単だ。こいつな、これ、ここを親指でちょっと外すじゃん?したら|蟀谷《こめかみ》にあてる」

 試しに銃を自分の蟀谷に当ててみた。

「あとは引き金を引くだけだ。それで一発楽に死ねる。こんな毒薬なんて大それたことしなくたって人なんて簡単に死ぬんだよ」
「流星さん、目がガチすぎます」
「当たり前だろこっちは眠いんだよ。早く帰りてぇんだ。前から言ってるが諒斗、お前は話術がない」
「いや、それ引いちゃったら永遠に帰れないから」
「運が良ければ帰れるな。こいつはちょっと|弾詰《ジャム》るから」
「いやいやいやちょっと待ってちょっと待って!弾詰るったってまさかメンテナンスして来てるわけでしょ!」
「さぁな」
「はぁー!?」
「いや俺さぁ、はっきり言っちゃって昼間の部署分裂騒動からちょっとメンタルきてるからな」
「ふっ、なんだよそれ」

 潤が後ろで笑いだした。それを見て諒斗は、「笑ってないで止めてよ潤さん!」と明らかなるテンパり具合。

こいつらアホなのか。まぁわかってたけど。

「諒斗、多分そいつ結構バカだから何言ってももう無理だよ。これぞまさしくBreak a leg!」
「は、はぁ〜!」
「え、てかマジなんですかあれ」
「あー、多分マジマジ」

後ろのやり取りももうどうでもいい。

「洋巳くん」
「…はい、」
「俺は部下を生きて返したい。君はここで死にたい。じゃぁ、一騎討ちで行こうじゃないか。どうだ?」
「はい?」
「俺のこの銃は弾詰るかもしれない。君のそのスイッチは、その空調は、果たして本当に作動するか。俺が、この状況で本当に対策を打っていないと思ってんの?」
「…は?」
「ただこちらも連絡は来ていない。正直わからない。やってみない?ダメだったらそうだな、俺じゃなかったとしたら誰か別の、そこにいるハウルでも、女の子でも、チビでも話を聞くから。それでどうだ?
もし失敗したらお前らごめんねー」
「…それほとんど、あなたが有利でしょう…」
「なんで?俺多分死ぬけど」
「…わかりました」
「えぇぇぇ!」

 諒斗が喚く。
 実際どうだかわからない。だがちょっと、楽しい。

「じゃ行くよー。はい、せーの!」

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