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「…そんだけ自信満々で言うからには、お前のそれは最早勘じゃないわけだな」
「いや、勘です。知識で喋りましたよこうもペラペラとね」
「…擦れてるな」
「擦れてるのは俺だけじゃない」

 ちらっと潤を見れば、「うるせぇ」と痛烈な一言が返ってきた。

「本気でウマが合わねぇな、お前」
「そうだな」
「一回外出る?」
「それもいいけど今はダルい」

そんなのに構ってやるほど若くねぇんだよ。

「お前らさ、」
「潤、」

 政宗が言う前に遮る。

「あ?呼ぶなよこの、」
「お前のことは嫌いだよ」

 空気が、張った。

「…俺だって」
「あぁ、そのはずだ。
 俺だって、そうだから」

 俺がそう言うと潤の表情がみるみるうちに変わり、最終的に泣きそうな顔になった。

「やめろ、そーゆーの…なんか、お前らしくない」
「俺らしい?」
「…もう少し寝てたら?」

 珍しくそう言って、しかもぽんぽんと潤は自分の膝を叩くもんだから。仕方なく再び膝枕されてやって。
 無駄に頭に、なんか優しげに手を置く野郎の表情が本気で今にも泣きそうだった。

 だが俺は優しくない。せめて伸ばす手は、頬とかじゃなくヤツの髪にしておこう。鬱陶しいから耳に掛ける。

「髪伸びたなぁ、お前」
「…はぁ?」

 ぱしっと手を払われた。取り敢えず目を瞑って眠りを待機しよう。しばらくは寝たフリだ。

「政宗ー、」

 そう呼び掛ける潤は、何故か俺の手を握っていて。

「しばらく寝てるっぽい。山行こ。休みだし」
「あいよ姫、仰せのままに」

なんだこいつら。
最早政宗は執事だな。

「なんならこいつほっぽり出して運転代わるよ」
「ほー、たまには優しいじゃん。だがいい。
 ドライブって連れて行く方もわりと楽しいから」
「うわぁ、あんた最早パパっぽい、休日の」
「…ははー、よく言われるわー」

あら、何か珍しく影が見えるわね、この男に。

「あら?傷口に塩塗った?」

潤さんぐいぐい行きますなぁ。俺は嫌いじゃないけど、お前やっぱり嫌われるタイプだろーな。

「…いや、別に。
お前はよく喋るなぁ」
「まぁね」
「まぁ賑やかでいいな。一人は寝てるんだか死んでるんだか起きてるんだかわからんしな」

あれ、寝たフリ軽くバレてる?まぁいいや。たまにはこんなのも新鮮だ。

「どれでも変わんないよ。まぁ喋らない分今の方がだいぶマシかな」

…なんかムカつくなぁ。
てかうるさくて寝れねぇよバカ。

「まぁそいつだけハードスケジュールだったからな」
「まぁな。倒れるくらいにはな」
「昔もあったよなー。俺実は何日か前から気付いてたよ、無茶してんの」

げっ。
気持ち悪。

「わかりやすいからなぁこいつ。手にペンぶっ刺すとかさ」
「それそれ!露骨にタバコが増えるとかな」
「返事をしなくなるとかね」
「手を噛み始めるとかな」

うぅ、なんかもう起きてやろうかな。お前らにだって山程あるっつーの。

「お前にもあるしな。
 眉間に皺が寄りすぎるとか、あ!両利きになるよな書類書くとき。あれすげぇ。手元見ないできれーにちゃんと真っ直ぐ鏡文字みてぇに書けてパソコンにも打ち込めてたりな」

あーそれ全部わかる。見てて気持ち悪いんだよな。

「あー、だってそれ多分末期だもん」
「あとあれ癖だよな。片足体育座りで椅子くるくる。お行儀悪いよ姫」
「育ちが悪いんだよ」
「あとあれな、一人言増えすぎ」

そうそう。
たまに返事すると「うるせぇ喋んな殺すぞ」って、そっちの方が明らか俺より喋った文字数多くね?みたいなときあるよな。

「で、最後発狂」

あぁ、それもあった。

 突然隣で、「キィェァァァ!」とか、なんかこの世の終わり、断末魔みてぇに叫んで立ち上がって頭抱えられたときは本気で心臓止まるかと思った。

もうクレイジー。通り越してサイコパス。

「あー…あれな…」
「流星驚き過ぎてもう後ろになんかあれどうなってたの?飛んだの?思いっきり後ろにすっ飛んで椅子から落ちたよな」

そりゃビビるっつーの!逆にあんたはよく普通だったよ。

「あれは漫画さながらだったよねー!あんなやつガチでいるかよ!」

 爆笑されてますけどお前のことだよ!お前の方が俺より遥かにおかしいよ!

「いや、お前が言えた口じゃないよね。お前あれなに?ヤバイよ。サイコパスだよ」

だよな?だよな?

「だってさ、どう頑張っても射程距離と血の飛距離が合わないんだもん。で、どんどん仕事増えるじゃん?薬莢の種類だの薬の解析だの。頭おかしくなってきてさ」
「まぁね」

仕事が多いのはわかるけどさ。

「そーゆー政宗だって昔から末期症状になるとなんかさ、ペンかちゃかちゃかちゃかちゃうるせぇし、あーだのうーだの唸ってるし、何回も無いコーヒーを啜るし舌打ちすげぇしタバコ臭ぇし」

タバコ臭ぇのはいつもだろう。

「末期じゃなくても酒癖悪ぃし」

 確かに酒癖は本気で悪い。何度マジで殺してやろうと思ったことか。

「うるせーなぁ。お前らよりだいぶマシだと思うけど」

そうでもないだろう。

「そうでもないよ。
 …変わんねぇな。なんにも、変わんねぇ。
 この距離感も成長度合いも何一つ。言うならば少しずつ麻痺してる。少なくとも俺は。子供の頃に嫌だと思っていた大人に、少しずつ、近付いてる」
「なんだよ急に」

 それには潤は答えない。重い、だけど明白な沈黙が流れていた。

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