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死体なんて物は綺麗さっぱり、見つからなかったそうだ。
「…考えれば、わかった話だな」
糸口が見えたのだが。
「まぁな。今回の麻薬は二種類服用して漸く効果が得られるものだからな。毒薬も、考えればわかった話だな」
つまりあの時の洋巳のあれは、多分失敗なんかではなかったんだ。
「だとしたら…」
二人は死んでいるはずだ。
あの時確かに、試験管が割れる音を聞いたのだから。
そして、なんとなく近付いた答えは。
「あいつら、黒だったわけだな」
「だな…」
「…あー…」
色々と失敗した。
「俺はもう、凹むしかないな」
「…珍しいこともあったもんだな。
お前だけそんなぼろっぼろになって帰ってきてな」
「あーバカみてぇ。いっそ埋めてくれ。このまま山へ連れて行け」
捜査車両で喚く。タバコを吐く政宗の息遣いがやけに乾いて聞こえる。
「嫌だね。この辺山ねぇもん」
「あぁぁーエベレストぉー」
「頭おかしいな相変わらず。血が抜けてなんとかなったかと思いきや」
「なぁ、てかどうしたのこいつ」
「あ?こいつ拳銃を自分で頭にぶっ放したんだよ」
「は?何?おっさんをからかうなよなんで生きてんだよ」
「ジャムったんだよ」
「うわー。一回死んどきゃよかったのに」
「まったくだ」
「ごめんごめん嘘だから。とにかくお前は寝ろ。相手する俺の身が持たない」
「はい、はい」
もうなんなんだよこのやるせなさ。
「脱力」
「まぁ、でも。
みんなが言うように無様ではなかったよ」
「へ?」
この野郎。
なんでこんなときに褒めやがる。
「ちげーだろ潤。
みんなが言ってたのは、『部長マジかっこよかった』だろ?」
「はっ、」
どこがだ。
これのどこがだ。
「いやもういいっす。マジいいっす。俺それいま無理っす」
「やっぱりな」
「政宗が作ったテンプレ通りの反応だな」
うるせえな。
こっちとら激務と、それと色々ありすぎて気が滅入ってんだよ。
「あいつら、しかしまぁどうしたもんかね」
「簡単だ。“ストックホルム・シンドローム”だろ」
「あ?」
ちょっと、仮にも特殊部隊だろうがこのバカは。
「伊緒パターンだよまさしく。
由来は、ストックホルムで起きた立て籠り事件から始まる。被害者が加害者に恋しちゃったり、依存してしまったりすること」
「…頭湧いた?流星」
「あぁ、なるほど」
「は?」
よし政宗、バカ潤をよろしく頼んだ。
「いや、つまりな、何故そういう状況に陥るかなんだよ」
「レイプでもされたの?」
「んー、まぁ遠からず近からず。
お前だったらまずさ、殺されるかもしれないという危機感が行き過ぎちゃったらよ?生命保持のためにどうする?」
「ぶち殺す」
「はい、流星任せた」
それは任せるというか匙を投げると言うんじゃないですか先輩。
「何日も何日も一緒に犯人といて、頭の中が極限になっちまってふと、残る感情。どうしよう。そしてそのうち犯人に情が沸いてくる。
一種の錯覚というか、まぁ錯覚じゃないんだけど防衛本能やら生命保持やら子孫保持の極限だな」
「え?なに?お前恋されたの?」
「違う!てか俺犯人じゃないし!
だから!話を戻すと、伊緒がそのパターンでエレボスに居たわけだろ?」
「え、そうなの?」
溜め息。
「多分な。
詳しくは知らんが、家に突然箕原海が押し入ってきて、家族ぶっ殺されて、そんでその犯人である箕原海に拾われたと」
「あー、なるほど、見えてきた見えてきた。
確かにその状況なら、愛人とか息子にでもなっちまった方が良いし生き残れるな。気も楽だしなんか言いたいことはわかった。
あのガキやるなぁ。
で、今回の子たちもそうっぽいってことか」
「そゆこと」
「だが待て、それは誰に?」
「は?」
「だから、浅井?それとも箕原海?」
確かに。
「そもそも浅井はエレボスじゃないのか?」
政宗のその質問も確かにそうだ。
だが勘が告げる。
「多分、違う」
「多分!?」
その返答に潤が笑う。わかる。俺もそれには笑えるんだ。
「その心理状況には、要するに犯人を被害者が庇い立ててしまったりする傾向が見られるわけでね。しかし最後の太一はどうだ?あれは果たして、浅井に向けてのものか?」
「…あぁ、確かに」
「ストックホルム・シンドロームには別パターンもあってな。これは特殊部隊でも知らないパターンだろうが、意外とこの精神病は一般化してきてんだぞ。というか潤、お前も一端のFBIならそれくらい勉強しておけ」
「えー、うぜぇ」
心底うざそうに言う潤を差し置いて、「で?別パターンって?」と政宗が煽る。
「家庭内ストックホルム・シンドロームっていうのがある。そもそも俺はFBIに入る前からこっちを知っていた。
子供が親に依存するというもの…いや、ちょっと語弊はあるが、心理状況は同じだ。子供にとっての親とは何か。命綱だ。それにひたすらしがみつく。だが、これが精神病じみてるのは何故かって、家庭環境が崩壊しているときだ。
例えば虐待されていようが耐えてしまう。反逆すれば殺されるかもしれないからな。
親がアル中だったら?愛情をくれる時間とくれない時間に差があるよな。子供は愛情をもらおうと必死になるわけだ」
「…その話、なんか続けてて得ある?」
潤が、途端に心底嫌そうな表情をした。目が合うと、
「胸クソ悪ぃんだよ、」
と、吐き捨てるように俺に言った。
「それがなんだ」
「うぜぇ」
「そうか。結構。
だから俺は勘でしかないがあの子たちは、どちらも当てはまるのではないかなというストーリーを作り出したわけだ」
「何を偉そうに。いっぺん死んでこい」
「出来たら楽だ」
「調子こいてんじゃねぇよ。次言ったら殺す」
「それも結構。今更どうやって生き延びようとか考えねえ。シンプルに殺されてやる」
その一言で潤が息を飲んだのがわかった。バカでも少しはわかったか、ざまぁみろ。
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