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 ついにバレンタインと言う、チョコレート会社の陰謀の日を迎えた。前日は胃がきりきりしてなかなか眠れなかった。
 だが小夜にはちゃんと、「頑張れよ」とか言って朝高校の前まで送り出した。

 何故俺がこんなにドキドキしてるんだ。

 それはもう結果が気になって気になって仕方なくて。だがそんな俺の気持ちは関係なく、お客さんからチョコをたくさんもらった。ふざけんな、これは社交辞令を越えているとは言えず、昼のテーブルには高級チョコがたくさん並べられた。

 食えない。
 これを全て食べたら鼻血が出るし糖尿になる、絶対。

 おっさんと合わせて10個くらい。これをどう処理しろと言う。
 休憩時間にそれを見た真里も絶句していた。

「毎年ながら…てか毎年以上に多くない?」
「うん…」
「女は怖いねぇ…」

 流石におっさんも呆れたらしい。凄く怠そうにチョコを消費していた。

「知り合いに配り歩こうかな。お前さ、ちょっと遥子ちゃんにあげて来いよ」
「うん…そうする」

 俺は結局2粒くらいしか手をつけなかった。

「これお返しどうすんの?」
「くれた客には取り敢えず、またホワイトデーに来てくださいねって言っといた。ホワイトデーにあのガトーショコラ出すわ…」

 それは楽が出来る。

「すげぇ、サンキュ」
「何言ってんだ。作るのは俺、お前は配れ」
「えぇ!?嫌だ」
「上司命令発令。やんなきゃ減給」
「パワハラかよ、マジいつか訴えるからな」

 真里も消費を手伝ってくれてる。さっきからコーヒーと共にひたすら口にチョコを入れている。

「お高いチョコとかマジ美味いけどさ、メスの意地悪さを感じるわ」
「真里、言い方ちょっとえぐいから」

 そうやってカロリー摂取をしつつ、げっそりしながら昼休みを終えた。

 夕方、小夜が出勤してくる30分前からどうも実が入らない。そんな仕事ぶりを見てかおっさんが、「そんな気になる?」とか言ってきた。

 そりゃぁ気になるよ。小夜の運命が掛かってるんだ。だが悟られるのも癪だ、タバコを吸おう。

「さっきからタバコを持つ手が震えていますよ、お兄さん」
「うん、アル中とジャンキーだから」
「その言い方気に入らないってお前!ガチで大丈夫か!?」
「光也さん、本気でヤバイ」

 確かに最早くわえられねぇよ。

「あー!うるさーい!気が散る!」
「確かに散ってる。灰と共に散ってる」
「柏原さん上手いっすね」

 なんだよ人の不安を楽しみやがって。もういい。タバコを消した。何故なら危ないから。

 そしてついに店の扉が開いた。小夜だ。

「小夜!」
「あぁ…おはようございまーす…」

 あれ?
 やべぇ、元気ないんですけど。

「小夜ちゃんどうだった!?」
「あぁ、はい…」
「え?その反応…」

 小夜は俯いて小さく震えた。
 え?泣いてる?

「えっ…え?」

 やべぇどうしよう。考えてなかったぞ対策を。
 取り敢えず駆け寄って、しゃがんで表情を見る。
 泣いてはいなかった。

「…どうした?」

 頭を撫でると、小夜は少し諦めたように言った。

「先輩、辞めるんだって」
「え?」
「だからごめんって。
 でも、チョコは受け取ってくれた。美味しいって、食べてくれたんだ」

 そう言って顔をあげ、小さく溜め息をついた。

「俺とは合わない、もっと良い人見つけろよってさ。笑っちゃうよ」
「…お、おう…」
「なんだその野郎」

 おっさんが腕組をして言った。

「ウチの小夜ちゃん振ろうなんていい度胸だ。そんなへなちょこ野郎、当たったらハグしてくれんじゃね?」
「え?」
「もっと行ったら、行けんじゃね?へなちょこの心を鷲掴むの得意じゃん、小夜ちゃん」
「え、えー…」
「大体な、俺の考案トリュフを食って落ちないわけない!どんだけ俺がそれで女落としたと思ってんだ!」
「柏原さん、それ、慰めてる?」
「慰めてねぇ、応援してんだ!もっと行け!」

 なんだそりゃ。

「意外とおっさんも動揺してんな…」
「し…てねぇし!」

 すると小夜は、突然笑いだした。
 え、なんだろう。気が触れたかな。

「さ、小夜?」
「あーあ!面白い…!
おかげで吹っ切れたような、燃えたような気がする!」

 全員無言。小夜だけが笑っていた。

「…みんなありがとう…!」
「お、おぅ」
「小夜強ぇ…」
「取り敢えずお仕事します!うん!」

 と言って小夜はバックヤードに引っ込んだ。その背中は思ったよりは逞しいように見えた。

「俺、大丈夫だったかな」
「うーん、まぁいいんじゃないですか?本人元気になったし」
「まぁ…いいとは言わないが思いは伝わってそう…」
「あそう?じゃぁいっか!」

 切り替え早いな。
 でも忘れてた。

「思ったより小夜、強いからな」
「そだね。まぁでも今日は傷心を癒してやんねーとな」

 どうやら前は向けたらしい。別にそう見せているのが嘘だとしても。
 重ねていけばその通りになるはずだ。辛い時こそ確実に前に進める。

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