15
ついにバレンタインと言う、チョコレート会社の陰謀の日を迎えた。前日は胃がきりきりしてなかなか眠れなかった。
だが小夜にはちゃんと、「頑張れよ」とか言って朝高校の前まで送り出した。
何故俺がこんなにドキドキしてるんだ。
それはもう結果が気になって気になって仕方なくて。だがそんな俺の気持ちは関係なく、お客さんからチョコをたくさんもらった。ふざけんな、これは社交辞令を越えているとは言えず、昼のテーブルには高級チョコがたくさん並べられた。
食えない。
これを全て食べたら鼻血が出るし糖尿になる、絶対。
おっさんと合わせて10個くらい。これをどう処理しろと言う。
休憩時間にそれを見た真里も絶句していた。
「毎年ながら…てか毎年以上に多くない?」
「うん…」
「女は怖いねぇ…」
流石におっさんも呆れたらしい。凄く怠そうにチョコを消費していた。
「知り合いに配り歩こうかな。お前さ、ちょっと遥子ちゃんにあげて来いよ」
「うん…そうする」
俺は結局2粒くらいしか手をつけなかった。
「これお返しどうすんの?」
「くれた客には取り敢えず、またホワイトデーに来てくださいねって言っといた。ホワイトデーにあのガトーショコラ出すわ…」
それは楽が出来る。
「すげぇ、サンキュ」
「何言ってんだ。作るのは俺、お前は配れ」
「えぇ!?嫌だ」
「上司命令発令。やんなきゃ減給」
「パワハラかよ、マジいつか訴えるからな」
真里も消費を手伝ってくれてる。さっきからコーヒーと共にひたすら口にチョコを入れている。
「お高いチョコとかマジ美味いけどさ、メスの意地悪さを感じるわ」
「真里、言い方ちょっとえぐいから」
そうやってカロリー摂取をしつつ、げっそりしながら昼休みを終えた。
夕方、小夜が出勤してくる30分前からどうも実が入らない。そんな仕事ぶりを見てかおっさんが、「そんな気になる?」とか言ってきた。
そりゃぁ気になるよ。小夜の運命が掛かってるんだ。だが悟られるのも癪だ、タバコを吸おう。
「さっきからタバコを持つ手が震えていますよ、お兄さん」
「うん、アル中とジャンキーだから」
「その言い方気に入らないってお前!ガチで大丈夫か!?」
「光也さん、本気でヤバイ」
確かに最早くわえられねぇよ。
「あー!うるさーい!気が散る!」
「確かに散ってる。灰と共に散ってる」
「柏原さん上手いっすね」
なんだよ人の不安を楽しみやがって。もういい。タバコを消した。何故なら危ないから。
そしてついに店の扉が開いた。小夜だ。
「小夜!」
「あぁ…おはようございまーす…」
あれ?
やべぇ、元気ないんですけど。
「小夜ちゃんどうだった!?」
「あぁ、はい…」
「え?その反応…」
小夜は俯いて小さく震えた。
え?泣いてる?
「えっ…え?」
やべぇどうしよう。考えてなかったぞ対策を。
取り敢えず駆け寄って、しゃがんで表情を見る。
泣いてはいなかった。
「…どうした?」
頭を撫でると、小夜は少し諦めたように言った。
「先輩、辞めるんだって」
「え?」
「だからごめんって。
でも、チョコは受け取ってくれた。美味しいって、食べてくれたんだ」
そう言って顔をあげ、小さく溜め息をついた。
「俺とは合わない、もっと良い人見つけろよってさ。笑っちゃうよ」
「…お、おう…」
「なんだその野郎」
おっさんが腕組をして言った。
「ウチの小夜ちゃん振ろうなんていい度胸だ。そんなへなちょこ野郎、当たったらハグしてくれんじゃね?」
「え?」
「もっと行ったら、行けんじゃね?へなちょこの心を鷲掴むの得意じゃん、小夜ちゃん」
「え、えー…」
「大体な、俺の考案トリュフを食って落ちないわけない!どんだけ俺がそれで女落としたと思ってんだ!」
「柏原さん、それ、慰めてる?」
「慰めてねぇ、応援してんだ!もっと行け!」
なんだそりゃ。
「意外とおっさんも動揺してんな…」
「し…てねぇし!」
すると小夜は、突然笑いだした。
え、なんだろう。気が触れたかな。
「さ、小夜?」
「あーあ!面白い…!
おかげで吹っ切れたような、燃えたような気がする!」
全員無言。小夜だけが笑っていた。
「…みんなありがとう…!」
「お、おぅ」
「小夜強ぇ…」
「取り敢えずお仕事します!うん!」
と言って小夜はバックヤードに引っ込んだ。その背中は思ったよりは逞しいように見えた。
「俺、大丈夫だったかな」
「うーん、まぁいいんじゃないですか?本人元気になったし」
「まぁ…いいとは言わないが思いは伝わってそう…」
「あそう?じゃぁいっか!」
切り替え早いな。
でも忘れてた。
「思ったより小夜、強いからな」
「そだね。まぁでも今日は傷心を癒してやんねーとな」
どうやら前は向けたらしい。別にそう見せているのが嘘だとしても。
重ねていけばその通りになるはずだ。辛い時こそ確実に前に進める。
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