2


 開店10分前。看板を出して思うのは、最近日が延びたということ。
 チューリップはもう、あと少しで咲く。時の流れは早い。

 今日は雪子さんは来るだろうか。ふと、それも思う。

 明日は久しぶりに公園にでも行こうかな。

 店に戻ってあとはお客さんを待った。
 最初の客は、珍しいことに、姉ちゃんだった。

「よっ!元気かー」

 しかも一家。あまりの珍しさにみんなカウンターに集まる。

「いらっしゃい。一家団欒?珍しいね」
「ねぇさん久しぶりっす」
「マリちゃん、久しぶりやなぁ!小夜ちゃんも元気しとるかー?」
「ようこそー!元気ですよー」

 たまに訪れるが、今回みたいに家族揃っては初めてだ。来るときは毎回夜、ヒロさんと姉ちゃんだけだ。

 しばらく見ないうちに|勝海《かつみ》と|竜太郎《りゅうたろう》はまた一段と大きくなった。

「大きゅうなったなぁ…」

 そう言うと思春期特有、ちょっと照れ臭そうに二人とも頷いた。

「息子さん?」
「そや!そっか、料理長は初めてか。
 上の子が勝海、今年高三なんよー。下の子が竜太郎。竜太郎は入学やな?」
「そっかー、大変な時期だねぇ」
「ホントホント」

 一家はテーブル席に座った。取り敢えず注文を取って先にドリンクを出した。

「今日はどうしたん?」
「いやー、最近あんま連絡ないから何してんのかなーって。忙しそうやね」
「まぁな」

 昔から心配性だなぁ。まったく。

「光也くん、なんか逞しくなったね」
「え?そうですか?相変わらずですよ」
「確かに、あんたなんか良いことあったん?」
「え?別に」
「あっそう…。なーんか男前になった気がすんのやけど女でも出来たん?」
「出来とらんよ。すまんね、まだ安定しませんわ」
「時の流れかねぇ。小夜ちゃんもなんやえらい別嬪さんになったなぁ。なぁ?」

 勝海と竜太郎に振る。すっごく照れ臭そうに二人とも小さく頷いている。

「かっちゃんとりゅうちゃんは?彼女できたか?」

 そう話を振ってやると勝海が「いないよ」と、小夜をチラ見して言い、竜太郎も控えめに「いない」と言った。

 勝海、わかるぞ気持ち。小夜はお前の初恋だもんな。

 どうせならと思い、俺は一度カウンターに戻り、「小夜、たまには」と促す。小夜は、「うん!」と元気よく返事をしてテーブルへ。そこから楽しそうに一家と話していた。

「やっぱ姉弟ってすげぇなー。特有テレパシーあるよな」

 ふとおっさんが後ろに来て言う。なんだ、特有テレパシーって。

「何それ」
「なぁんか通じ合うもんあるよなー…。会わなくてもさ」

 おっさんは姉ちゃん一家を見てなんだか懐かしそうな顔をしていた。なんか、そーゆー思い出でもあるのかな。
 そもそも俺は、この人の素性をあまり知らないな。

「そーゆーもんかね」

 なんとなくこの人、ずっと一人で生きてきたんだろうな。家族の話とか聞いたことがない。

「おっさんってさ、家族どんなん?」
「え?俺んち?
 さぁね。あんま覚えてないや」

 これはなんとなく触れてはならないんだろうな。

「そっか」
「まぁ…、お前を羨むような家庭環境だったかもね。だって今羨ましいもん」
「…あそう」

 俺の家庭なんてわりと泥沼だけどな。

「俺は家、あんま好きじゃなかったよ」
「そうか。まぁ確かに光也は遥子ちゃんと仲良いだけっぽいもんな」

 おっさんはグラスを二つ取り、山崎を注いだ。片方を渡され、乾杯した。

「俺も今姉ちゃんを羨ましいと思ってる」
「まぁ幸せそうだもんな」
「うん」

 山崎の濃さが芯を熱くする。美味い酒だ。

 注文した料理が出来ると真里は、自分でカウンターを出て出しに行った。そのついでに二言三言話し、戻ってくる。

「やっぱねぇさん豪快だね。めっちゃ食ってるよ」
「あ、ちょっと一人だと大変?」
「うん。でもまぁ混んでねぇし大丈夫っすよ」
「まぁ戻るよ。
 いやー、光也とちょっと盛り上がってなー」

 と言いながら二人でキッチンに戻って行った。

 一人になって見渡してみると、やっぱりここの雰囲気は好きだなと思う。
 お客さんはいつもそれぞれが楽しそうで。見てる方も暖かくなる。これを作り上げられただけでもちょっと誇らしい。一番苦労したのはおっさんだけど。

 少ししてからまたお客さんが入った。そこで小夜はバーカウンターに戻ってくる。

 姉ちゃん達は混む雰囲気になったころに帰って行った。
 帰り際、レジで会計をしていると、「私の目は誤魔化せんで。良い人おったら紹介せぇや」と言われた。

「まぁ出来たらな。また来てな」
「なんや素っ気ないなぁ。そんなんじゃモテへんで!」
「はいはい。
 ヒロさん、こいつ酔ってるんでいつもながらよろしくお願いします。かっちゃんりゅうちゃん、またな」

 一家は帰って行く。たまにこうして連絡が空くと来るんだよなー。

 それから店はあまり混むこともなく、まったりと時間は流れた。

 最近そう言えば雪子さん、来ないなぁ。

 扉をぼんやりと眺めていると、「すみませぇん」と、すぐ目の前席から甘ったるい声が聞こえた。座っていたカップルの女の方が声を掛けてきた。

「あぁ…すみませんね。何飲みます?」
「なんかぁ、お兄さんかっこいいですねぇ」

 うぜぇぇ。ってかそれ彼氏の前で言うか?と思って彼氏を見ると、彼氏は彼氏でなんか隣の、見た目キツそうな大人っぽい女と話してる。
 え?何この感じ。カップルじゃないの?

- 53 -

*前次#


ページ: