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 仕事中は案外それについては考えずに進め、ランチもほどよく忙しく過ぎた。

 ランチが終わって最後のお客さんを返そうとドアまで見送ると、小夜が、自転車を押した背の高い男子高生と一緒に店の前にいた。

「おぅ、小夜」

 なんだろ、早退かな。

 男子高生が軽く会釈をしたので取り敢えず返す。
 小夜はその男子高生に「ありがとうございました」と深々と頭を下げた後、手を小さく振った。

「じゃぁ…ね」

 そいつが小夜に言い踵を返すと小夜はしばらくそいつの背中を見つめたあと、重い足取りでこっちに歩いてくる。

 え、なんなのあの雰囲気。

 ドアの前まで来て俺と一瞬目が合うと、こてっと倒れるように胸に額をくっつけてきて。よく見たら肩が震えているので泣いているのがわかった。

 どうしていいかわからないから頭を撫でる。多分もの凄くぎこちない。
 余計泣けてきたらしい。そのうち小夜から嗚咽が漏れるようになって。「どした?」とおっさんからも言われる。

「取り敢えず中入ろ?」

 天気もぐずぐずしていて雨が降りそう。そう言えば朝の雨は止んだんだなと今更ながらに気が付いた。
 肩を抱きながら、店に入り、泣いたままの小夜を座らせる。

「さ、小夜ちゃん!?」

 色々驚いていると賄いを作ろうとしていた真里も覗き、「あ、そっか」と一人納得。

「今日卒業式か」
「あ、」
「そうなの!?」

 確かに卒業式なのは今思い出したけどさ。泣いてるのは…。

「ほうだへほ…」

 鼻詰まっちゃってるな。ちらっと真里を見るとやわらかティッシュ箱を渡してくれた。これは真里の花粉症ストックだ。
 一度思いっきり鼻をかむ。おっさんが然り気無く小夜にリンゴジュースを出した。

「卒業式か…」

 俺は一度深呼吸をして、おっさんを見た。察して水を出してくれた。それを一気に飲み干してから切り出す。

「…彼氏?」
「ん?」
「えぇ?」

 二人とも状況を読み込めてない。それどころか俺を変なやつを見るような目で見てるけど、俺もそんなのに構っていられるほど精神的に余裕はない。

「うぅん…うーん…違う」

 すると小夜はブレザーのポケットからコロンと何かを取り出した。ボタンだ。

「今日…ホワイトデーだから…辞めちゃったけど、お返しでくれた」
「うぉぉ」

 あいつの顔が浮かんだ。全然ヤンキーそうに見えなかった。

「え、なにそれ惚れる」
「全然ヤンキーそうじゃなかったな…」
「え、知ってるの?」
「さっきいたあの子でしょ?」
「うん…」
「え、えぇ!?」

 あの子。
 ちゃんと制服着てたけどな。

「わざわざこの為に制服まで着て卒業式、来たんだ」
「卒業式には…来なかった。終わったとき、待ってたの校門で」
「うわぁ」
「なんてかっこいいんだその子。よほど小夜ちゃんのこと好きだったんだなぁ…」
「え?」
「好きじゃなきゃそこまでやんないよね。え、お前らどうよ?」
「うーん、まぁ気があるのはそうかも。制服って高校唯一の正装だもんな。でもボタンって第二でしょきっと。それはね、もうその状況を想像するとなんか…」
「切なくなるな。小夜確か振られたんだもんな。
 振った子にそんな状況でボタンを渡す…度胸あるな。でもそれは想像するに、なんか振らなきゃいけない事情あったのかね。それか振ったあと好きになったのかね」
「てかそれって」
「いま最早泣く意味なくない?だってそれってオッケーでしょ結果」

 だが小夜は、唇を噛み締めて涙を堪え、首を振った。

「先輩が好きでいてくれたなら…やっぱり切ない。
 だって頑張っても…」

 俯いて静かに泣いていた。
 何がそんなに障害になるんだろう。こんなに若くてまだまだ乗り越えられることなんてたくさんあるはずなのに。

「何が…ダメなの?」
「私には…先輩の全てを受け入れられるかわからない。先輩が私を受け入れられるかわからない」
「だろうな。まだだってお互い歩み寄ってないじゃん」

 ちょっと溜め息。

「まぁ、たくさん悩め。悩んだら、誰かに言うことも大切だよ」

 俺がそう言うとおっさんが吹き出した。

「それはアンタに言いたいもんだ」

 まぁ確かに。

「でもいつも思う。光也さんやっぱ良い人だよね」

 どうしてそうなったんだろ。

「それは間違いないね。小夜ちゃん、よかったね。まわりにいる大人はみんな面倒な恋愛しかしてないよ」
「大抵は太刀打ち出来るな」
「いや出来てないじゃん!あんた早くアップルクーヘン作りな!」
「あっ!」

 忘れてた。まぁいいか。

「みっちゃんごめん!」
「大丈夫。小夜、頑張れな」

 とか言ってる場合じゃないけど。

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