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「…俺さ、光也さんの寝顔見てんのわりと好きなんだよ」
「えぇ…!?」
「うん、きっとわかんないよね。でもいいんだ、それでさ」

 真里はふと額に手を当ててきた。「大丈夫そうだね」と言ってテーブルの方を向き、タバコを吸い始めたので俺も隣に座り、タバコに火をつけた。

 ふと横目で何気なく見ただけだった。
 静かに真里が一筋だけ涙を流しているのが見えた気がした。

 わからない。なんか見てはいけないもののような気がしてすぐに然り気無く顔をそらしたから。

「電気もつけっぱで寝ちゃってたね俺たち」
「そうだなー…」
「あー眠い。明日休みだし髪切りにいこうかな」
「珍しいな」
「染め直したいのもあるしねー。たまには」

 欠伸だったのかな。
 でもそうじゃなかったら。

「はー、光也さん、俺あっちで寝るから使ってていいよ」

 タバコの火を消して真里は立ち上がり、俺の部屋に行こうとする。

「真里、」
「ん?」
「その…なんだ」

 沈黙がそこで生まれる。真里が振り向いたのも分かる。

「長年一緒にいて、その…俺はお前に何もしてやれていないな…」
「ん?」
「なんて言ったらいいのかな…。でも…」

 俺は何を言おうとしてるんだろう。
 でも、いつか言わなきゃならないしいつか言いたいことではある。

「…俺はお前といて楽しいんだ。意気投合っていうか、考えも怖いくらいわかってくれてて。時に喧嘩もするんだけどさ…。
 でも俺は、お前のことわかってやれてない。答えてやれてない。多分、これからもお前が望むかたちで答えられない…と思うんだよ。それでも一緒にいたいなって、それでも大切だなって思うそれは、」
「あー、うっせぇ」

 イライラしたように真里は言い捨てた。

「…それ、言う意味あった?」

 確かに、そう言われてしまえばそうだ。

「…ごめん、ちょっと出てくるわ。気が向いたら帰ってくる」

 そう言って真里はその場にあった財布とケータイをコートのポケットに突っ込んで荒々しく扉を閉めて部屋を出て行った。

 物音を聞き付けてか、小夜が起き出してきた。俺はまだ、座ったままだ。

「みっちゃん…おはよう?」
「おはよ…」
「よくなった?」
「うん…多分」
「マリちゃんは?」
「…ごめん」

 本当に、帰ってきてくれるかどうかわからない。

 ふと小夜が一度部屋に戻り、ケータイを持って現れた。

「朝飯はいらない。昼には戻ります。それまでは光也さんの…」
「真里か?」
「うん。喧嘩したの?」
「…そんなところ。昼には戻るって?」
「うん。どうしたの?」
「俺が…ちょっと言っちゃいけないこと言ったみたいだ」
「みっちゃんが?」

 なんだか驚いて言う小夜は、冷蔵庫からリンゴジュースを紙パックごと持ってきて、目の前にコップと一緒に置いた。

「それは|質《たち》が悪そうだね。私が話を聞きましょう」
「え?」
「だって…。
 みっちゃんあんま言わないのに何を言っちゃったのかなって。そんな人が言う言葉には多分、破壊力があるのかなって」
「破壊力か…」

 別に俺はそんなに無口な人間でもないと思うんだけどな。

「なんて言うか…蓄積されてそう。想いとかそーゆーの」
「あぁ…確かに」
「当たり?てことはいままで言わなかったこと言っちゃったんだ」
「うわぁ、お前なんだよ」

 こ、怖いぞ小夜。

「て言ってもみっちゃん、大切なことってあんまり言って来なかったんだもんね」
「…え?」
「まぁマメに言うことでもないけどさー、なんて言うか私たちは特殊だからなー」
「うん、まぁ…」
「マリちゃんには何言っちゃったの?」

 俺は取り敢えず小夜に話した。

「あぁ…そこか…」
「言わなきゃよかったかな」
「いや、多分…いつか言わなきゃならなかったってか何だろ、どうしよ、ごめん」
「え?え?」

 そして小夜が突然泣き出すという、俺にはどうしていいかわからない状況になった。

「ちょ、小夜…」
「いや…ごめんねみっちゃん」
「え、えぇ…」

 なんで泣くの。

「もうなんか二人ともの気持ち考えたら泣けてきちゃって…」
「ちょっと、待って俺どうしたらいい?」

 取り敢えず抱き締めとこう。多分めちゃくちゃ手震えてるけど。

「みっちゃんもマリちゃんも悪くないんだよ…!」
「もー…。
 俺もキャパ超えるからな…」

 でもなんかスカッとした。そして気付いた。

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