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今日はぎくしゃくしたまま一日中営業。なんとなく常連さんも、異様事態に気付く人はいるようで、「なんか暗いね」とか言ってくる人も居て。
そのせいというか、売り上げは高かった。元気を出してくれということだろうか。
「申し訳ないねぇ。今日の売り上げはみんな反省だな」
あまりおっさんは喜ばなかった。俺たちも、なんとなく、この売上はなんだか違うなと思って悔しさがあった。
「全員プロのくせしてな。恥ずかしいわ。ありがたく思え」
まったくもってその通りだ。
「さて、明日からはちゃんとな。
飯でも食おうか。そだ、光也は?いる?」
「あー、俺はすまん」
「そっか。まぁまた明日な」
「え?」
「本当に雪子さんの家に居るの?」
「うん。そこは本当だよ」
「なんだ、家なき子ではないのか」
そこから疑ってたのか。
あそっか、仮眠室(仮)に居たからな。
「じゃ、そんなわけで」
俺はすぐ帰ることにした。帰ったら多分雪子さんが待っているから。
敢えて振り向かずに店を後にした。
一人でこの道を歩いてみると、意外と広いことがわかった。
距離も意外と長い。だけど早く帰りたくて。
店が見えて一息。
だけど気付いた。やっぱりシャッターが閉まっていて入り方を知らない。
電話して開けてもらった。
「お帰りなさい…」
「ただいま…」
照れ臭そうに雪子さんは言って鍵を渡してくれた。
「不便でしょ?裏口の…鍵」
「ありがとうございます…」
とか言って俺はいつまでいるつもりなんだろう。
「夕飯食べてきたの?」
「いや、食べてきてない」
「そんな気がしてさ、…作ってみたの」
凄くにこにこして言ってくるから。
「何作ったんですか?」
「…焼きうどん」
また難解というかなんというか。これはこれで個性的な物を作ったなぁ。
手洗いうがいをして掘り炬燵に座ると、暖め直して出してくれた。
「わざわざありがとうございます。いただきます」
手を合わせてから食べ始める。
少し焦げてしまった具とかもあったけれど美味しかった。
「おいしいです」
「よかった。味とか濃くない?」
「まぁ疲れてる時は濃いくらいがいいですね。でもそんなに濃く感じないですよ?」
「あら、そう。なんとなく濃そうな感じしたんだけど」
「もしかすると俺が疲れてるからかもしれないですね」
食べ終えて食器を下げて洗おうとすると、「大丈夫よ、お風呂入ってきたら?」と促された。
「浴槽にお湯溜めたの。ゆっくり疲れを癒してね」
「うわぁ、至れり尽くせりだ。ありがとうございます」
お言葉に甘えて久しぶりに長湯に浸かることにしよう。
風呂場にタオルは用意されていた。思い出して一度二階に着替えを取りに行って風呂に入った。
体や髪を洗って浴槽に浸かる。ほどよい温さ。たまに入る浴槽はいい。乳白色の入浴剤がリラックスさせる。
ぼんやりしてたら眠くなった。
そう言えば旅行とか、行ったことないなぁ、一人暮らしを始めてから。
温泉とか良いなぁ。喜ぶかな、小夜と真里は。
…小夜と、真里は。
てかこれ風呂って、俺から入ってよかったのかな。
雪子さんは風呂入ったのかな。
なんかそう考えたら居心地が悪くなって、シャワーで流してすぐに出た。
いくらなんでも一応、他人の家。
休みの日に家でも探さなきゃな。
居間で雪子さんはぼんやりとテレビを見ていた。
俺を見るなり俯いて、「風邪引かないでね」と言った。
昨日より調子は良さそうだ。
「今日は、店は?」
「やっと復帰できた。本当にありがとう」
「いえ…あんまりなにもしてあげられなかったから」
「そんなことないわ。ご飯も美味しかったし、側にいてくれたし。多分光也くんいなかったらもっと不安だった」
「そうですか」
「光也くんは?」
「まぁ、いつも通り…」
じゃないけど、全然。
「…今日は私が髪の毛乾かしてあげる!」
「え?」
「ほら、ね?」
そう言って立ち上がり、また風呂場の洗面台まで一緒に来た。
「雪子さんは、風呂は?」
「もう入ったよー」
「そうですか」
あんまり気にすることもなかったな。てか、時間的にそりゃそうか。
丁寧に髪の毛をとかしてくれて、タオルで拭きながらドライヤーで乾かしてくれて。
これ、案外心地良いんだな。
ふと鏡に写った姿が。
なんか凄く俺は気持ち良さそうで、雪子さんも幸せそうで。
思わずそれを見て笑っちゃって。
「どうしたの?」
「いや、なんでもない!」
「あら、そう」
乾かし終わってドライヤーを置く。振り返って「ありがとうございます」と言うと、ちょっとはにかんだ顔をしていて。
「光也くんほどうまくなくても、いいよね?」
「全然。気持ちよかったですよ」
「よかった」
そう言って微笑む姿は本当。
年上特有の色気と、そこに見える女性らしい可愛らしさと。
男は子供っぽいっていうけど。
女だってわりと子供っぽい。人間というカテゴリーに入れたら結局プラマイゼロじゃないかな。
気付けば見つめてキスしていて。
どれ程長かったかはわからない、一瞬よりは長かった。目を開けたときにはもう、さっきの笑みとは違う、遺伝子的な色気というか魅力を感じて。
お互いに気付いたらわりと夢中になっていた。
ただやっぱり昔のような若過ぎる感覚はなく、そこは押さえてちゃんと雪子さんの部屋まで行って、ついてからもう一度キスをして。
キスをしながら服を脱がすその感触に少し躊躇っても、雪子さんは容赦をしない。手を誘導する。
そこからは流れるように濃厚な時がゆっくり早く流れた。
気が付いたが案外雪子さんはキスが好きなようだ。
俺も、どちらかといえば、セックスよりはキスの方が好きだ。
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