9


 無事に店はオープンし、その時間には真里や他の従業員が数人入ってきた。真里は俺を見て、呆れたような驚いたような表情を浮かべた。

「あれ、おはようございます」
「おはよう」
「まさか?」

 真里のそれには答えないでいると、真里は案の定で溜め息を吐いた。

「あんた、昨日言ったじゃねぇか」
「大丈夫、それも今日まで。これはガチで」

 声を潜めて先ほどの話をした。だが真里は、いい顔をしない。

「…俺は正直、嶋田もあんまり」

 と言っているときに嶋田さんが店に戻ってくる。先ほどまで控え室(兼事務所)に籠っていたのだ。恐らく、電話をしていたのだろう。店長なり、上層部なりに。

 心配そうに、長谷川さんも寄ってきて、

「志摩くん、ありがたいけど、確かに神崎君の言う通りだよ…君は頑張り屋さんだからね…」

 なんか、逆に心配をかけてしまったかもしれない。別に無理してる訳じゃないんだけどな。

 その日はそのまま難なくピークを終え、14時に休憩。
 やっと一段落。そう思ったら急に気が抜けたのかぼーっとする。

「光也さん休憩一緒。ご褒美にコーヒー奢る」

 控え室の貴重品ロッカーから財布を取り出そうと、鍵を開けようとするが、2、3回ロッカーを間違えて鍵を刺してしまう。やっと自分のロッカーにたどり着いたら今度は右と左を逆に回してしまい、開かない。

「光也さん?」
「あー、間違えたわ」
「…大丈夫?」
「うん。休憩はわりとオフモードやねん」

 やっと空いたロッカーから財布とタバコを出して控え室を出ると、慌てたように真里が追いかけてきて、左の脇腹辺りをがしっと掴まれた。

「今日何日目だっけ?バイト」
「んー?あー、覚えてない」
「俺休みだった…月曜日は?」
「月曜…入ってたなぁ」
「水曜は?」
「うーん、休み…あ、いや、夜勤変わった日だ」
「…あんた最後休んだのいつ?」
「休憩中なんだからいいよ…」

 真里と喫煙所に向かう。外の日差しが暑い。一瞬真里は手を離し、今度は首筋辺りに神妙な顔で触れてきた。

「そうだけどさ」

喫煙所にあった自販機でスポーツ飲料を買い、俺に渡してきた。

「あぁ、ありがとう」

 タバコを吸うのもダルい。だが癖みたいなもので、取り敢えず一本取って火をつけた。何口か吸うと、気持ち悪くなってきて火を消し、スポーツ飲料を飲んだ。

 心配そうに真里が見てきたので、「なんだよ?」といつものようにふざけた感じで返し、もう一本火を点けた。今度は一口目で噎せる。

「顔色悪ぃし熱いんですけど」

 額に手の平を当てられた。確かに、真里の手の方が冷たいような気がしなくもない。

「そりゃぁ、夏だし」

 さっきから冷や汗みたいなもんが凄い。真里の手を剥がすように払いのけ、「大丈夫だよ」と一言返す。

「いや、大丈夫じゃないよ」

 あー、ぼーっとする。

「じゃぁ休憩寝てる。寝てれば治る」
「何言ってんのあんた」

 これ以上言ってもダメそうなので先に喫煙所を出る。言われてみて気付いたが頭も痛い。

- 22 -

*前次#


ページ: