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「…どうぞ」

 小夜に促され、真里はようやく部屋に入ってきた。

 額に当てた腕すらも熱い。ただ、重さが頭痛にちょうど良い。

「光也さん…」
「びっくりしたろ」
「そりゃぁ…」

 小夜は真里に、冷蔵庫にあった紅茶を出す。

「そこの階段にいたんだ、一人で雨の中。親がいないんだ、そいつ」
「え?」

 息も熱い。正直今あんまり説明とか、そーゆーのダルいな。

「最初は、その日だけ面倒見ようと思ったんだけど、そいつ最初喋れないし字も書けないしでさ」
「あんたって人はホントさ…」

 ケータイが鳴った。姉貴からだった。

「もしもし…姉ちゃん?」
『どした?』
「ごめん、熱出た。小夜に|感染《うつ》すとヤバイから今日一日預かって欲しい…」
『死にそうやね』
「小夜保険証とかねぇから病院かかれねぇし。ごめんマジ」
『バカは風邪引かんて嘘やな。何したん?』
「なんもしとらんわ」
『しゃーないなぁ、今行くわ。ご飯は』
「テキトーになんとかする。とにかく小夜をなんとか…」

 話してる途中で真里にケータイを奪われた。

「もしもし、お話し中すみません。バイト先の後輩の神崎と申します。今日は取り敢えず、弟さんは俺が面倒見ますんで安心してください。
 …はい。はい、その通りです。はい。
 …バイト先でふらっふらになってるくせに、まだ働くとかほざいてたんでもうね、強制的に連れて帰ってきちゃいました、すみません。
 …はっはっは!はい、あ、はい、病院には連れていきました。あ、俺ですか?俺は全然暇なんで。いえいえ。
 あ、はい。よーく言って聞かせます。はい。はい。では、変わります」

 なんとなく何を話したかはわかる…。絶対怒鳴られるなと思って覚悟してケータイを受け取るが。

『もしもし?』
「はい」
『…あんたの友達いいヤツやね。大切にせぇよ。
 無理すんなや』

 電話はやっぱり一方的に切れた。予想に反して姉貴は優しかった。

「お姉さんが『バカタレ』だってさ」
「ははは…」
「俺からも言うわ」

 そう言うと真里は隣まで来て、俺の手を握り、「アホ」と言い捨てた、

 小夜を見ると、小夜は泣きそうになっていた。それに微笑んだつもりだが、うまくいかなかった自覚が沸いた。

「小夜、テスト出来なくてごめんな。今日は姉ちゃん家で勉強しててくれ」
「…みっちゃん…」

 初めてそう、呼ばれた。

 よく姉貴が小さい頃、俺のことをみっちゃんって呼んでた。多分、姉貴が教えたんだ。

 それが嬉しくて、なんて言ってあげていいか分かんなかった。けど、何か言おうともがいていると、「うっせぇな、早く寝ろ!」と真里に怒られてしまった。

「こんな小さい子に、こんな顔させんな」

 ごもっともだ。俺は情けない。
 真里に甘えることにして、目を閉じた。

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