12
「…どうぞ」
小夜に促され、真里はようやく部屋に入ってきた。
額に当てた腕すらも熱い。ただ、重さが頭痛にちょうど良い。
「光也さん…」
「びっくりしたろ」
「そりゃぁ…」
小夜は真里に、冷蔵庫にあった紅茶を出す。
「そこの階段にいたんだ、一人で雨の中。親がいないんだ、そいつ」
「え?」
息も熱い。正直今あんまり説明とか、そーゆーのダルいな。
「最初は、その日だけ面倒見ようと思ったんだけど、そいつ最初喋れないし字も書けないしでさ」
「あんたって人はホントさ…」
ケータイが鳴った。姉貴からだった。
「もしもし…姉ちゃん?」
『どした?』
「ごめん、熱出た。小夜に|感染《うつ》すとヤバイから今日一日預かって欲しい…」
『死にそうやね』
「小夜保険証とかねぇから病院かかれねぇし。ごめんマジ」
『バカは風邪引かんて嘘やな。何したん?』
「なんもしとらんわ」
『しゃーないなぁ、今行くわ。ご飯は』
「テキトーになんとかする。とにかく小夜をなんとか…」
話してる途中で真里にケータイを奪われた。
「もしもし、お話し中すみません。バイト先の後輩の神崎と申します。今日は取り敢えず、弟さんは俺が面倒見ますんで安心してください。
…はい。はい、その通りです。はい。
…バイト先でふらっふらになってるくせに、まだ働くとかほざいてたんでもうね、強制的に連れて帰ってきちゃいました、すみません。
…はっはっは!はい、あ、はい、病院には連れていきました。あ、俺ですか?俺は全然暇なんで。いえいえ。
あ、はい。よーく言って聞かせます。はい。はい。では、変わります」
なんとなく何を話したかはわかる…。絶対怒鳴られるなと思って覚悟してケータイを受け取るが。
『もしもし?』
「はい」
『…あんたの友達いいヤツやね。大切にせぇよ。
無理すんなや』
電話はやっぱり一方的に切れた。予想に反して姉貴は優しかった。
「お姉さんが『バカタレ』だってさ」
「ははは…」
「俺からも言うわ」
そう言うと真里は隣まで来て、俺の手を握り、「アホ」と言い捨てた、
小夜を見ると、小夜は泣きそうになっていた。それに微笑んだつもりだが、うまくいかなかった自覚が沸いた。
「小夜、テスト出来なくてごめんな。今日は姉ちゃん家で勉強しててくれ」
「…みっちゃん…」
初めてそう、呼ばれた。
よく姉貴が小さい頃、俺のことをみっちゃんって呼んでた。多分、姉貴が教えたんだ。
それが嬉しくて、なんて言ってあげていいか分かんなかった。けど、何か言おうともがいていると、「うっせぇな、早く寝ろ!」と真里に怒られてしまった。
「こんな小さい子に、こんな顔させんな」
ごもっともだ。俺は情けない。
真里に甘えることにして、目を閉じた。
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