13
次に起きた時、真里はつまらなそうにテレビを見ていた。時刻表示は23時45分。
「うわっ!」
「うぉ、びっくりした!」
「あ、ごめんごめん…。真里、電車!」
「えぇ?何言ってんの?今日は面倒見るって言ったじゃん」
あぁ、そういえばそうかもしれない。
「飯出来てるから。食える?」
「ああ、ありがとう…」
ちゃぶ台をみると、冷蔵庫にあったのであろう食材であんかけ焼きそばらしきものがラップしてあった。
さすがキッチン担当。
真里がその皿を手にして電子レンジでチンして持ってきてくれた。
「いただきます」
ホントは全く食欲なんてなかったが、せっかく作ってくれたので少しずつ食べ始めた。
「おおよそのことは小夜とお宅のねぇちゃんから聞いた」
「…そっか」
「あんたのこともな」
「…え?」
真里は、見慣れた薬袋《やくたい》を俺の前に突き出した。
あぁ、バレちまったか。
「あー…」
「幸いにも小夜はなんだか知らなかったが、たまに飲んでるからって言って渡してったよ。それ見て焦ってねぇさんがこの袋まじまじと見て、耳打ちしてったわ」
「……小夜、知ってたのか?」
「なんの薬か、とかはねぇさんも小夜も知らなかった。もしかしてって言われたから調べた。敢えてその時は処方せんとかは見せてない。けどわかっちゃうだろうね。調べるだろうな」
「…だろうなぁ」
「“ハルシオン”。トリアゾラムを使用した超短期型睡眠導入剤。とても刺激が強いので、かなり効きはいいが、依存性が強くやめられなくなる可能性が高い。そしてこれには、|一過性前向性健忘《いっかせいぜんこうせいけんぼう》があり、飲んだあと効き目が出るまでの10〜15分間ほどの記憶を無くすことがある。その間本人に自覚はなく、何か、喋ってたり下手すりゃどっか行っちゃってたりとかすることもある。
そして依存性が高いため、薬を辞めたときのリバウンドで不眠症になりやすい。俺がインターネットで調べられたのはここまでだ」
「まぁ、おおよそその通りだな」
そう言うと真里は、ばんっとちゃぶ台を叩いた。見ると、明らかに表情は怒っている。
「いつから」
だけども怒りを押し殺したように静かに言った。
「……何が」
「小夜のことは聞いた、一月くらい経つんでしょ?そっちはいい。あんたが…こうなったのが…!」
「言ってなんになる」
「……小夜が原因なら、それは間違ってる。だってそれを知ったら小夜は悲しむだろ?あんたが大切にしてる小夜は。
そんなんだったら俺は悪いが小夜をどっかに棄ててくるわ。そこは悪いがあんたを優先する」
「…何がだよ」
落ち着け俺。別に何も問題なんてないんだ。ありのままを話そう。
「…大丈夫。お前が思ってるほど深刻じゃない。小夜ともうまくやってる、だから何も小夜は悪くないし、そいつも、生活が不規則だからちょっと処方されただけだ」
「嘘吐くなよ…!
じゃぁなんで最大処方数ある?ねぇさんがあんなに焦る?もういいよ嘘吐くなよ。なんなんだよ!」
「……ダメか」
ここまで来たらもう、俺はやっていけないんだ。
「だからなんでそうやって無理して笑うんだよいいよ!」
「暗闇が嫌いでな」
聞いてくれなくていいわかってくれなくていい。
聞いてくれない方がいいわかってくれない方が、遥かにいい。
「寝る前って色々考えるんだ。一人で閉じ籠る唯一の瞬間だから」
「うん…」
「自分はホントにダメなヤツだなとかさ。考えて気付いたら朝になって」
いたたまれなくなってタバコに火をつけた。タバコを始めたのだってきっかけは、寿命が縮まったらいいのになって単純すぎる考えで手を出したんだ。思い出したら嫌になってまた火を消してしまった。
呼吸抑制と発熱、ふらつき。これが副作用で極稀に出ることを真里はきっと知らない。きっと、知らない。副作用がどうして出てしまうのかも。
「悪かったな、今日は…」
「ホントだよ」
「…ちょっと連勤続いたから無茶したわ、次から気を付けるよ」
「…それでいいんだな?」
それには何も答えなかった。答えられなかった。
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