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 カーテンレールの音が微かに聞こえて目が覚めた。
 窓の方を見ると真里が、「あ、」と気まずそうに言った。ベットとは反対側のカーテンを開けていたようだ。
 口元まで被っていた毛布を少しずらして、「おはよう…」と挨拶。

「…おはよう」

 良い匂いがすると思ってちゃぶ台を見れば、焼き魚、卵焼きにご飯という朝食の帝王みたいなメニューが並んでいた。

「朝飯出来たよ」

 言いながら、こっちのカーテンも開けてくれた。

「なんか…お母さんみたい」
「そうか?起きたばっかだから食えるときで」
「うん」
「ホントはちっと前に起こそうかなって思ったけど、なんかあまりにも気持ち良さそうだからちょっとな…」

 なんか、そう言う真里が面白くてつい笑ってしまった。

「なんですか」
「変なヤツ」
「あっそう。次から母ちゃん起こししてやる。フライパンガンガンやってさ!
ほら、味噌汁あっちね!」

 起き上がって台所で味噌汁を少し温める。沸騰する直前くらいで火を止め、お椀二つに盛って部屋に戻る。
 一つを真里の前に置くと、「沸騰させてないよね?」と生意気なことを言われたので、「常識」と胸を張るように答えてやった。

 手を合わせて「いただきます」と言うのが最近の日課になっていたらしい。無意識にやっていたら真里が少し笑って「なんかお行儀いいな」と茶化してくる。

「幼女と暮らしてるとこうなるんだよ」
「その言い方やめねえ?すっげぇ卑猥なんですけど」
「お前小夜が帰ってきて下ネタ言ったらマジ肘鉄食らわすからな」
「今の、どっちかって言うと光也さんが言ったよね」
「“卑猥”ってなに?どーゆー字書くの?とか言われたら説明できないわ」
「え?そっち?」

 ふとテレビを点けて時間を見た。9時半くらいだった。

「真里、今日の予定は?」
「特に決めてないけど。夕飯までに荷物運べたらいいかな、くらい。
 車とかはじーさんのワゴン車あるし」
「じーさんワゴン車なんて乗ってんのか」
「うん」
「随分アクティブなじいさんだな」
「なんかね、ワゴン車でたこ焼き売ろうと考えてたらしい。アホだよね。移動販売車という言葉を知らなかったらしいよ」
「うわぁ…え、それ、そのまま?」
「いや、なんか移動販売車は、その辺で死んだじいさんだかばあさんの貰って今はカレーを売り歩いて旅してる」
「へぇ…ってカレーかよ」
「前車持ってた人がカレー売ってたから意思を受け継いだんだって」
「え、なんかすげぇ…」

 流石、真里のじいさんだ。変わっている。

「まぁその話は置いといて」
「あ、そだ。ごめん、圧倒されてたわ。
真里って免許あったっけ?」
「イエス、ペーパードライバー。
 いや、まだペーパーってほどでもないか。ちゃんと去年更新したぜ」
「あー、俺免許いつだっけ」
「てか更新出来んの?」
「わからん」

 確かそろそろ更新時期だったはず…と思って免許証を取り出し見てみると、丁度あと3か月後くらいに迫っていた。

「あ、やべぇな」
「光也さんペーパー?」
「うん。人生で片手に入るくらいしか車乗ったことない」
「うん、俺が運転するわ。恐らくあんたとそう変わらん技術だわ。
 どのタイミングで小夜迎えに行く?」
「荷物運び終わったらかな。ちょっと姉ちゃん家に菓子折りでも持ってさ」
「あいよ」

 一通り段取りも決めたし、姉貴に電話しようかな。

「じゃぁまずは俺が行ってる間に女モン捨てるか」
「てか荷物、どんなもん?」
「服とかしか持って来ないわ。一応ちょくちょく実家には帰る体でいくよ。まず本気でここ住もうってなったら狭いだろ」
「まぁ…」
「よっぽどの時、例えばテストとか。そーゆーときに帰るわ」
「わかった」

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