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 あまりにも寝息が小っせぇから生きてるか不安になるが、暖かいしなんとなく胸辺りが上下してるから生きていることは分かった。

 密やかに生きてんなぁ。

 ふと、この人は今、安眠なんだろうかと思った。良い夢見てんのかな。そうだといいんだけどな。

 そう思ったのに、一度だけ帰る途中、何だか苦しそうに「うぅ…」と唸って、ふと肩に何かが当たったような気がしたので俺の願望は淡い夢だったんだと気付いた。顔を見て確認する勇気は、今の俺にはない。

 わかってるんだ。あんたのことなんて救えないんだ。救いたいと思うほど他人行儀的な、身勝手な優しさもない。いっそそこまで無神経になれた方が俺自身が楽できるんだろうな。あとは気付かないフリしてあんたに優しさを押し付けりゃぁ満足出来るんだからな。

 それは俺には出来ないんだよなー。あんたには出来ない。他だったらまだ出来たんだろうけどな。

 でも幸せにはなって欲しいんだよ、わかるかな?わかんないだろうな。俺だってわかんないもん。なんでこんな面倒なやつ本気で好きになっちまったんだろう。

 ホールと厨房じゃあんまり接点もなかったのに。遡ったらいつから好きだったんだろうな。気付いたときにはもう、手がつけられなかったんだよ。

 でも何が?って聞かれたらいっぱい答えられるよ。じゃなかったらね、ここまで面倒見ないよ?

 報われなくてもいい。こんなのは慣れてる。いままで報われたことなんてなかった。好きな人ほど遠かったから、この距離結構気に入ってる。

 ただ、これが辛くないかと言われればなんとも言えない。けどいいやとも思ってるんだ。

 階段を登っても光也さんは起きなかった。よっぽど爆睡してますな。

 生憎サンダルで出掛けたので靴を脱がすのは楽だった。出来れば起こしたくないけど、これは仕方ないな。

「ほら光也さん、ついたよ。せめてベット!」
「ん?あれ?」

 いつのまに自分の家に着いてるのに驚いていた。ベットの前で降ろす。ベットに腰かけたと思いきや、まるで倒れるように寝転んだ。

「まったく」

 ちょっと可愛いから頭くらい撫でてやろうと頭撫でてたら、一度目を開けた。
 だがまたすぐに目を閉じ俺の手を頬に持ってきやがった。

 ぜってぇ前の彼女と間違ってやがるなこの野郎。

「おい…」

 我関せずで寝てやがるし。人の気も知らないで。

「そんなんやってると襲っちまうぞこの野郎」

 幸せそうに寝やがってムカつくな。ガキみてぇに無垢な顔しやがってよ。

「襲う気にもならねーよ」

 手の力が弱まったところで自分の手を引っこ抜いて寝床の準備をした。

 あーあ、今日は悶々とした夜を過ごすことになりそうだ。

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