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顔を埋めてしまった。このまま寝られたらめんどいなぁ。
「ほーら、寝るならベット!」
「んー?」
そのままこっちを向く光也さんはなんだか幸せそうで。
「なんだよ」
ちょっと手を伸ばして髪の毛を触っても嫌がらなかった。
これ他の女に絶対見せたくないなとかそんな邪な考えが過る。これは俺じゃなくたってイチコロだろ。この人ホント自覚ねぇな。
「手ぇデカいな、お前」
目を開けたその目が潤んでるときた。それ反則だバカヤロー。それともなに?許してくれちゃってる?
「あんた罪なやつだね」
「え?」
自覚なし。
はいはい。わかってますよ。あんた案外純粋なんだよな。
「あんたってさ、女がめっちゃアピールしてても絶対気付かないだろ」
「それ言われる。誰から聞いたん?」
「……いや、聞いてねぇよ。鈍感だなって思っただけ」
いい加減病むんだよなこーゆーのさ。
「もういいや。散歩してくる」
と言って立ち上がると、右手が引っ張られた。
「んん?」
「俺も行くわ」
俺の右腕を使って光也さんは立ち上がる。思わずちょっとよろける。
歩けんのかこいつ。
一人になりたかったんだけどな。まぁいいや。
外に出て階段までちゃんと歩けている。少しだけ危ういがまぁ、隣を歩いていようかな。
自販機でコーラを買ってくれたからまぁ全部チャラにしてやろう。
光也さん家の近くの公園まで行きベンチに座ってタバコに火をつける。光也さんは紅茶を飲んでいる。そう言えば昔炭酸が嫌いだと言っていたな。
「あった」
「何が?」
急に空を見上げて言うもんだから俺も見上げてみた。
「ベガα星、アルタイルα星、デネブα星で夏の大三角形習ったよな?」
「あー、習ったような習ってないような。アルファって何?」
「星の等級。うーん、なんて言ったら良いんだ?一等星とかゆー言い方したらいいのか?
アルタイルからまっすぐ行ったとこに、ポラリスα星がある。現在の北極星と言われるやつだ」
「へー、みつかんねぇ!」
「うーん、よく言われる見つけかたは、ベガとデネブを軸に、三角形をひっくり返して……」
光也さんは星空に三角形を書いた。その先には確かに薄ぼんやりと星があった。
「あれ?」
「そうそれそれ」
「へー!あれが?意外とショボい!」
「そうなんだよ意外とショボいんだよなー。俺も初めて自分で見つけたときがっかりしたわ」
「てか詳しいなっ!」
これはガリ勉の域を越えているんじゃないか。
「小さいとき姉ちゃんとはまってな、天体観測。家にちっちゃい望遠鏡あったんだ。
姉ちゃん、わがまま言って父ちゃんに買ってもらったんだけど、父ちゃんもよくわかんなかったみたいでさ。自由研究とかで使う1000円くらいのやつ買ってきたらさ、全然見えねぇの。飽きてすぐ俺のになったわ」
「へー」
「小さい頃よく競ったよ、俺の方が知ってるぜ!とかさ。途中まで良い線いってたんだけど結局気付いたら俺が姉ちゃんに教える側になってた。星座とか星座神話とかさ。言い出しっぺは姉ちゃんだったのにな」
そう言う光也さんはやっぱりちょっと寂しそうだった。
「女落とすのに使えそうなネタだね」
「案外落ちないよ」
「そーゆーもんかね」
「まぁ時と場合によるかな。神話って意外とエグいしな」
「へー。なんか小夜喜びそうじゃね?」
「そだな。小夜そーゆーの好きかもな。あ、でも星座ってかギリシャ神話はだめだ」
「なんで」
「エロいから」
「なんだそりゃ」
やっぱり過保護だよな。
「エロスもガキには必要だぜ?」
「ちなみにエロスは本当はそーゆー意味の神様じゃないんだぜ」
「そーなの?」
「正しくは愛の神。ローマ神話でクピド。クピドが鈍ってキューピッドとなるわけだ」
「へー!そうなん?じゃぁそーゆー意味は?」
「そーゆー意味もなくはないけど、もっと強烈なのがお母さんのアフロディーテ。現在の金星、ビーナス。アフロディーテはちんこからできてる。こいつはもろに性欲の神様」
「じゃぁエロいじゃなくて何?アフい?」
光也さんはそんな冗談に笑った。
「だからってアフロヘアーのヤツがみんな性欲にまみれてるわけじゃないからな?」
「ああ、はい、そこまで言ってないっすね」
話の切れ間にまた光也さんは夜空を見上げていた。
この人いつもどっか遠くを見てるよなぁ。
あ、ちょっと眠くなってきてるな。これはちょっかい出してやんなきゃ寝られる。
首筋にコーラを当てる。「ひぅ!」とか変な声だして飛び上がるんじゃないかと言う勢い。転けそうになったのを支えてやった。
「え?え?そんなに?ごめんごめん」
「首はあかんからバカ野郎!あービビったマジビビった」
「あ、性感帯?」
とか聞いたら気まずそうにジロッと見られた。これ睨んでるつもりかな。
「え?図星?」
うわぁ、首押さえて下向いちゃったよ。この人ホント嘘吐けねぇんだな。
「…もういい、帰る」
「わかったわかったごめんって!もうやんないから!」
「うるせーバカ」
あーあ、怒らしちゃった。
そんな態度ならこっちだって。
肩に手を置いてわざと耳元辺り、首に息が掛かる距離で「ごめんね光也さん」と謝ると、一瞬立ち止まり、次の瞬間鳩尾辺りに衝撃。
「うぉふっ!」
「近付くなこの変態!」
どうやら肘鉄食らった模様。しばらく動けない。遠退く背中。
いやいやひどくね?こっちの身にもなってよ。俺だってどんだけ我慢してると思ってんだよ。言わねーけどさ。
本当を言うならさ、このまま腕引っ張ってって繁みに連れ込んで脱がしたいところだぜ?弱いとこ知っちゃったしな?だけど我慢してんだよ?なんだったら帰ってからでもいーやなんて邪な考えすら捨ててんだからね?誰のためだと思ってんだ。
つかよく見たらわりと千鳥足じゃねーかまったく。
また違うベンチに座ったところで駆け寄ることにした。
「はいはいごめんね。本当に何もしないから帰ろう?」
ベンチの横に小さな池があった。そこをじっと見てこっちには目もくれない。
まったく手が掛かるなぁ。
「あー、金魚って気持ち悪ぃな」
「だったら見なきゃいいのに」
「こいつら何?なんかキモくない?」
「お兄さん酔っぱらってますな。家帰るよ。明日仕事だろ」
片手ついたそこに体重掛けてこくこくし始めてる。
「あーもぅ!」
人生二度目、先輩をおんぶ。
相変わらず軽いな、何食って生きてきたんだよ。
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